日産を立て直したゴーンの“洗脳”力

心理学では身体的拘束をして物理的な力で価値観を変える行為を「洗脳」、暴力ではなく社会心理的な手法で人を誘導する行為を「マインドコントロール」(以下、便宜上“洗脳”と表現)と定義づけています。どんな手口があるのでしょうか。

カルト教団や悪徳商法など“洗脳”者は「(1)理想描写→(2)理論提供→(3)現状把握→(4)目標設定→(5)支援表明」という手順の「型」を持ち、これを駆使します。

(1)は、ターゲットとなる人物に接触し、その人の「夢・理想の世界」を一緒に描いてやり、われわれと行動すればそれが実現できると訴えること。ターゲットが「そんなことが可能か」と懐疑的な場合は、すかさず(2)です。こんな理論や法則がある、と裏付けを見せることで安心させ、「ならば、自分にもできるかもしれない」とモチベーションを上げさせる。しかし、ここで一度冷や水を浴びせます。これが(3)の現状把握です。「理想はココ、今のあなたはココです」と。「やっぱりムリか」と落ち込んだとき、“洗脳”者側が繰り出すのが(4)の目標設定です。「小さな階段を上っていけば理想に到達できる」とロードマップを敷いてやるのです。そして、だめ押しの(5)。「私が支援する」とその組織のボスが後ろ盾となることを表明するのです。元オウム真理教教祖の麻原彰晃死刑囚は、実は大変面倒見がよかったと多くの信者が証言しています。“洗脳”騒動の多くは、こうした手口を駆使する側が、ありもしない理想をあたかも存在するように語り相手を操ろうといった利己的な作為がある場合です。

ただ、先ほどの手順の「型」に罪はない。例えば、企業の上司に悪意がなく倫理観があれば、対部下操縦法として(1)~(5)の手順は大いに役立つでしょう。部下に寄り添い、近未来の「人生モデル」を描いてリアリティある体験談を語ってやる。客観的に現状把握をしたうえで「小さな階段」を上がる部下に並走してやる。いわば合法的に部下を“洗脳”には、(1)~(5)すべてが必要です。その際、上司自身もそれらを遂行する力や部下に適切な助言ができる視野と懐の広さ、さらにインテリジェンスも求められます。