「よろしく頼むよ」と言ったのに、部下が仕事の期日を守らない……。そんなときは、自分の指示、依頼の言葉を見直してみよう。上手な念押し=「クギを刺す」技術が足りていないのかもしれない。

的が外れた念押しの言葉には、全く意味がない

国際競争の激化する現代のビジネス界で、経営者は常に選択を迫られています。そしてその判断を、自分だけでなく、部下にもピシリと直ちに伝えていかなければならないビジネスリーダー、上級管理職、中間管理職、そして1人でも部下を持つ上司は今、「ある1つの問題」で頭を抱えています。

自分が「こうしたい、こうしてほしい」という思いが、部下に正確に伝わっていかないことです。

結果、期待した仕事が上がってこないことになります。さらに、最近はメンタルな面で「打たれ弱い」部下も増えていて、部下の精神的傾向や性格にまで配慮しながら指示をしないと、組織がうまく回っていきません。

この指示を出す行動を「パフォーマンス心理学」の視点から細かく分けると、最初のプランの「指示」と途中の「念押し」や「ダメ押し」などの行動に、それぞれ特別な「技術」が必要なことがわかります。ここでは、それらを総称して「クギ」とします。

まずは、上司と部下のやりとりで、次の会話を見てください。

上司:「A社に提出するプレゼン書類、今週中に作っておいてくれるかな?」
部下:「今週中、ですか?」
上司:「できるだけ早くやってもらえると助かるのだが……」
部下:「ほかにもいろいろ仕事を抱えておりますので……。とにかく、がんばってみますが……」
上司:「ひとつよろしく頼むね」

こんなやりとりは、残念ながらまったくなんの約束にもなっていません。このやりとりの後、もし部下が当の上司ほどは緊迫感や責任感を感じていなかったら、おそらく彼は事態を気軽に捉えるでしょう。ちょっと困り顔で、「できるだけやってみました」「がんばったんですが」など、次々と言い訳の材料が出てくるに違いありません。

「ひとつよろしく(Please.)」だの「うまくやっておいて(Do it well.)」だの言っていたのでは、肝心の指示のダメ押し、つまり「とどめのクギ」はスッポ抜けるばかりです。