やる気のない部下を鼓舞せんと、前向きなビジョンや解決策を提示したのに、ますます組織の状態は悪化するばかり。その理由はいったいどこにあるのか?
なぜ不満に対してポジティブな言葉が意味をなさないか
「我慢の限界がきそうだ」。金融サービス会社の営業部門を率いるダンは、そう嘆いた。「会社は成長しており、仕事は面白く、ボーナスも今年はかなりいいはずだ。それなのに聞こえてくるのは不満ばかりだ」。
部下に調子はどうだいと聞くと、彼らは決まって顧客について批判的な言葉を口にしたり、仕事量に不平を言ったりした。
「部下たちの間に広がっている後ろ向きの姿勢を変えるにはどうすればいいんだろう」と、ダンは私に尋ねた。私が現在はどのように対応しているのかと質問すると、彼はこう答えた。
「われわれの前にどれだけ大きな機会が広がっているかを説明し、わが社の理念を説いた。どんな目的のために働いているのかを思い出させたいと思ったんだ。でもうんざりだ。彼らを沈滞から引きずり出したい」
ダンの対応はごく当たり前の、直観に沿ったものだが、まったく効果がない。彼は最初、後ろ向きの姿勢に前向きな姿勢で対応しようとした。それがうまくいかないとわかると、彼自身が後ろ向きの対応をするようになった。が、どちらの対応も部下の後ろ向きの姿勢を強めた。
相手の後ろ向きの姿勢に前向きな姿勢で対応するやり方がうまくいかないのは、それが相手に反論することになるからだ。人は自分の感情を否定されるのを嫌う。しかも、そんな説得を試みるのがリーダーである場合はさらに悪い結果になる。そのようなリーダーは部下が経験している現実を把握しておらず、部下の置かれている状況に無関心なように見えるからだ。
もう一つの、相手の後ろ向きの姿勢に後ろ向きで対応する方法がうまくいかないのは、相手の感情を強化するためだ。後ろ向きの姿勢に後ろ向きに対応したら火に油を注ぐだけだ。