人と人が会話するとき、脳では主に「大脳皮質と前頭葉」、「辺縁系」、「脳幹」が活発に機能している。行動科学の研究者であるレーナ・スコーグホルム氏はそれぞれを「ヒト脳」「サル脳」「ワニ脳」と表現し、「大きなストレスにさらされた脳はほぼ『ワニ脳』しか機能していない状態であり、コミュニケーションに支障をきたす」という――。(後編・全2回)

※本稿は、レーナ・スコーグホルム著、御舩由美子訳『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

指をさして怒鳴るビジネスマン
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テイスティングの段階では「ヒト脳」だったが…

前編からつづく)

では、ディナーパーティに戻ろう。最初の場面は、ワインの分析だ。

分析能力は、脳の最も新しい層にある。この層は、私たちをホモサピエンス、つまり人間たらしめている場所だ。ここは新皮質(大脳皮質)と前頭前皮質(前頭葉)からなっている。覚えやすいように、また説明しやすくするため、この新しい領域を「ヒト脳」と呼ぼう。

テイスティングのあとでピェテルがワインを何杯か飲むと、彼は自分の感情をどんどん解放しはじめた。自分の気持ちを頭のなかで選別することなく、あらいざらい表に出した。このコミュニケーション・モードは、脳の2つ目の層である辺縁系、つまり「ほ乳類脳」にある。

「ほ乳類脳」は感情と、それを行動に移すシステム、つまり情動のシステムをつかさどっている。ピェテルは自分の発言を深く考えず、自分の行動がどういう結果になるかも想像しなかった。また、その状況ではどんな言葉が適切か、といった配慮もなかった。これは、一時的にヒト脳が働かなくなり、感情が制御されないまま外にあふれ出た状態だ。

覚えやすいように、ほ乳類脳のことは「サル脳」と呼ぼう。

「大脳皮質と前頭葉」「辺縁系」「脳幹」に分類される

ここで念のため書かせてほしい。人間の生命システムに名前をつけたからといって、これらの部位を決して軽んじているわけではない。それどころか、まったく逆だ。

私が本書で述べることは、人間の脳のあらゆる部位を尊重すべきだ、という考えが出発点だ。脳は、私たちの祖先を何百万年ものあいだ救いつづけてきた。私たちは、その脳を心から敬わなければいけない。脳の働きを理解して、大切に扱わなければいけない。

脳に関わる有益な知識を日常生活で存分に活かすには、覚えやすい呼び名をつけたほうがいい、というだけだ。

最後の場面はピェテルが眠っているところで、これは「逃走」のふるまいだ。このあと、ピェテルは友人を怒鳴りつけるが、これは「闘争」のふるまいだ。少し前の、友好的な態度が嘘のように消えている。

これは、サル脳がアルコールの霧に包まれて、機能が停止したためだ。このとき、ヒト脳とサル脳はどちらも一時的に機能をストップしている。まだ機能しているのは3つ目の層、脳幹だ。ここは「爬虫類脳」、または「ワニ脳」と呼ばれている。