フランスの産業大臣に成り上がる?

果たして日産のCEOとして適任なのかどうか、ゴーン氏には3つの問題があると思う。

1つは「上昇志向が強すぎること」だ。若くして出世を積み重ねてきたので、野心が強い。だから09年にGMの立て直しをアメリカ政府から打診されたときにも興味を示した。上昇志向の“上限”がどの辺りにあるのか、自分自身がまだわかっていないというか、探っているようなところがある。

2つ目の問題は、ルノーから送り込まれた日産の支配者という立場で振る舞うことだ。当初はシュバイツァー会長の名代として、今やルノーの会長兼CEOとして、日産をぞんざいに取り扱っている。

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ルノーの純利益算定の構造

しかし、ルノーの業績がよかったのは日産を買ったほんの一瞬だけで、その後はずっと低迷を続けている。

図はルノーの純利益算定の構造を示している。ボルボ株を売却したときの特別利益を除けば、日産の寄与分が圧倒的に大きいことがわかる。つまり今のルノーは日産の配当金や出資金で何とか生き永らえている状態なのだ。ゴーン氏は10億円を超える年収の大半を日産から得ているが、これは本来なら配当を受け取っている親会社のルノーから支払われるべきものだ。

またルノーの株式の15%はフランス政府が保有していて、経営にも政治介入してくる。フランス政府としてはルノーの立て直しには興味があっても、日産の立て直しには興味がない。だからルノーがリストラをやろうとすると「リストラするなら日本でやれ」とか、「マイクラ(日本名はマーチ)をフランス国内の工場でつくらせろ」と口を出してくるのだ。

来年4月に任期を迎えるルノーの会長人事にもかかわってくるから、ゴーン氏としてはフランス政府の意向に逆らえない。あるいは前述のアンビションの問題で、フランスの産業大臣にでも成り上がるルートを探っていて、フランス政府の意に沿うように努めている可能性もある。

ゴーン氏としてはルノーから(実質的に)追い出したタバレス氏がプジョーの会長になるのは面白くない。その上の産業大臣になってルノーとプジョーをまとめて差配してやろう、という野心があってもおかしくはない。

いずれにしても、日産から破格の報酬を得ていながら、ルノーとフランス政府のために日産を食い物にしているのは、日産株主から見たらあからさまな利益相反行為だ。事実、東証は上場企業のCEOを同一人物が兼任しないように指導している。利益相反問題と、本来上場企業のCEOはその企業の経営に専念すべし、というのがその理由だ。