過剰投資のツケを払うのは誰か

実際、ゴーン氏は日本でほとんど仕事をしていない。日産にいる私の友人たちの話では、彼が日本にいるのは平均月3日ほどではないか、という。ほとんど国外にいて、訪問先の国で首脳クラスの政治家と会談しては、新工場の建設など気前のいい話をぶち上げる。経営者というより外交官である。

部品調達もできないモロッコのタンジールに工場をつくり、育った国であるブラジルでは1000億円以上を投じてリオデジャネイロに新工場を建設している。ロシアではプーチン大統領からの要請を受けて、ロシア最大の自動車メーカー、アフトバスの過半数の株式をルノーと日産で取得させた。

ゴーン氏の名声とステータスは高まるかもしれないが、過剰投資のツケを払うのは結局、日産なのだ。こうした状況から東証が(国が違うとはいえ)2つの巨大上場企業のCEOを兼任することは好ましくない、と日本の株式市場の立場から警告を与える必要がある、と私は考えている。

3番目の問題は、野心家でありながら、自らの「売り時」を逃してしまったことだ。

世界の自動車産業を見渡してみれば、調子が悪いのは自分の会社だけ。世界のトップ自動車会社が枕を並べてひっくり返っていた5年前には1人名声をほしいままにしていたが、今は真逆である。次のステージは(少なくとも産業界では)容易には見つからないだろうから、日産とルノーにしがみつくしかないのかもしれない。後継者候補を次々と放逐しているのは、本能的に今の立場に居座ろうとしているからではないだろうか。

トヨタとフォルクスワーゲン、ぎりぎりGMは別格としても、フォード、ホンダ、ヒュンダイ辺りの同格メーカーと生き残りをかけて激しく競争していかなくてはならない日産にとって、今の、ルノーとの関係は足枷でしかない。ルノーの「生命維持装置」としてむしり取られ続けるだけだ。