頭の中でまとまらない考えを具体化したいときはどうしたらいいか。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一さんは「同僚との壁打ちが効果的だ。その相手を探すときに有効な声かけがある」という――。

※本稿は、伊藤羊一『壁打ちは最強の思考術である』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

CAN WE TALK?
写真=iStock.com/ariya j
※写真はイメージです

なぜか「いいアイデア」はボンヤリしている

壁打ちは一部のイケてるクリエイターやコンサルタントだけのものではありません。

「ちょっと壁打ちしませんか?」
「壁打ちお願いします」

こうしたやりとりは、企画や商品をゼロからつくりあげるクリエイティビティが問われる職業や、イケイケなアイデアをたくさん出していくコンサルタントにいかにも似合いそうですし、実際にそれらの業界では日常的に行われるとも聞きます(今思えば、僕が最初に「壁打ち」らしきものを目撃したのも、ビートたけしさんと構成作家の高田文夫さんが企画の種をただただしゃべりまくるという深夜番組でした)。

もちろん、クリエイター職にとって重要なコミュニケーションであることは間違いありませんが、壁打ちの本質は「その人の内側にあるモヤモヤを思考として構造化し、他者と交換できるアイデアに変える」というもの。そして、この本質はどんな仕事にも通じる汎用性のあるスキルそのものなんですね。

「やる気スイッチ」を入れる壁打ちの力

たとえば、人事や総務、経理など、いわゆるコーポレートサイドの仕事は「非クリエイティブ職」と認識されがちですが、僕はまったくそう思いません。

自分の役割や目の前の仕事に対して誠実な人ならばきっと、チームの業務フローや他部署との連携の手法、そもそもの位置づけについて、「もっとこうしたらいいんじゃないかな?」という改善案を漠然とでも抱いているのではないでしょうか。

これも立派なアイデアの種。「思考の0→1」を生む壁打ちによって、チームあるいは会社全体を巻き込む素晴らしい提案に発展する可能性を秘めています。

さらに言えば、この「壁打ち」のビジネス上の価値は、10年前、5年前と比べて飛躍的に上がっています。

なぜなら幅広い業種のビジネスのあらゆる職種の人に、「企画開発力」が求められる機会が激増しているからです。

自動車メーカーがクルマだけをつくっていればいい時代は終わり、AI開発やサブスクサービスや街づくりなど「いったい何屋さん?」と言いたくなるような分野まで事業領域を広げる会社が増えていますし、「あの会社とあの会社が!」と驚くような異業種コラボレーションのニュースも絶えません。

世の中は完全に変わったのです。

決められた型通りにモノをつくる力で評価される大量生産時代から、クリエイティビティの時代へ。これからはあらゆる職種にとって「自分の頭で考え、自分で生み出したアイデアを形にする力」が必須のスキルになっていくはずです。

つまり、思考力はもっともっと重要になる。もっともっと、みんなのものになる。

難しい方法論や専門的なスキルは一切不要の壁打ちは、思考を民主化する起爆装置になるはずです。