ビジネスで結果を出すためにも、キャリアアップを果たしていくためにも、まずメンタルをいい状態にしておくことが欠かせません。心をポジティブな状態にしておけば、思考は自然と前向きになり、プラスの判断や行動につながっていくからです。自己肯定感を構成する「6つの感」を高める具体的なメソッドを紹介します。

イフゼンプランニングでポジティブな行動を促す

自己肯定感とは、心の「免疫力」とも言える感覚のことであり、体に受けた傷が自然に治癒する仕組みがあるように、心についても同じことが言えます。また、自己肯定感は毎日の習慣やトレーニングによって高めることが可能です。

そこでわたしは、自身の心理学をはじめとする研究と、何千例ものカウンセリング経験をもとに、自己肯定感を構成する要素を、次の「6つの感」として分類しました。

① 自尊感情
② 自己受容感
③ 自己効力感
④ 自己信頼感
⑤ 自己決定感
⑥ 自己有用感

これらの「6つの感」について、それぞれ効果的に高めるためのメソッドを、【前編】に引き続き紹介していきます。

自分の人生を望む通りにつくろうと前向きに考え、「わたしならきっとできる」と自然に思えること。そんな力の源が、自己肯定感を構成する「6つの感」のひとつである「③自己効力感」です。

自己効力感とは、ある対象に対して、自分はなんらかの行動ができると思えることです。わかりやすくいうと、目の前に自転車があれば、それに「乗れる」と思えること。あるいは、営業する商品やサービスがあるなら、自分はそれらを「売ることができる」と自然に思える感覚を指します。

この自己効力感を高めるために最適なのが、「イフゼンプランニング」というメソッドです。これは、「もしXが起きたら(if)、行動Yをする(then)」と事前に決めておくことで、ポジティブな行動を促していく方法です。

例えば、1年後に仕事の実績を10%上げたとしたら(if)、アップした報酬で自己投資をしてより豊かな人生を送る(then)というように、希望的な見通しに沿って進んでいくことができるでしょう。また、ものごとを悲観的に捉えがちなときに行うと、ネガティブな思考を断ち切り、前向きな行動ができる自分に立ち戻ることができます。

いまの時代は組織にも「効力感」が必要

チームや組織をまとめる役割を担うビジネスパーソンの人なら、自分に対する効力感だけでなく、みんなでひとつの目標などに向かうために、「組織効力感」も醸成していく必要があります。まさにチーム全員が、「わたしたちならできる」「この目標ならみんなで達成できる」と思える状態で、毎日の仕事に向かうことが大切なのです。

そんな共通の目標に向かうために必要な行動も、「イフゼンプランニング」で設定できます。「上半期の売り上げ目標を達成したなら、チームみんなで旅行に行く」というように、報酬だけではなく、チームをまとめ、人生をより充実させる選択肢を考えることもできるでしょう。

特に、いまの若い世代は、仕事に対して意味や充実感を求める傾向が強く、働く場所に対しても「居心地のよさ」を求めています。居心地がいい環境で働くからこそ、自分の特質や能力を存分に活かすことができ、そこで働くことに意義や希望を見出すことができると言うわけです。

そこで、いまリーダーやマネジメント職にあるビジネスパーソンの人は、「イフゼンプランニング」を活用して、若い世代を含めた組織全体でひとつの場所に向かって行ける、そんな魅力ある目標や目的地を探すことが必要と言えるでしょう。

コーピングで揺るぎない「自己信頼感」を育む

自己効力感を持ったうえで、そんな自分自身を信頼できる感覚が、「?自己信頼感」です。例えば、ある製品やサービスを「わたしは売ることができる」と思っているビジネスパーソンならば、そんな自分を心から信じられることを指します。

もちろん、自分をうまく信じることができないときもあるでしょう。そんなときは、「コーピング」というメソッドが役に立ちます。これは、自分がストレスやプレッシャーを感じたときに、すぐにできる解消法をあらかじめリスト化しておくというメソッドです。「深呼吸をする」「外を歩く」「パートナーとじっくり話し合う」など、状況によっていろいろな打ち手が考えられると思います。

それこそ、大きな商談やビジネスの機会が控えているとき、「わたしはできる」と思っていても、ちょっとしたことで自信を失うことはありえます。トラブルが重なり焦らずにはいられない状況に陥るときもあれば、メンタルが強い人でも、病気や怪我で体調を崩すこともあるでしょう。

そんなときでも、どれだけ自分を信じて焦らずにいられるかが大切です。そこで、ネガティブな状況をあらかじめ想定し、解決のプロセスを決めておくことがコーピングです。自分ができる打ち手を事前にリスト化しておくと、実際にそうなったときにも、すぐに対処できます。対処できることをあらかじめ知っているからこそ、自分自身を信頼でき、揺るぎない自信へと変わっていくのです。

ビジネスには数多くの利害関係がかかわり、常に想定外の事態への対応を迫られます。コーピングは、特にリーダーやマネジメント層のビジネスパーソンにとって、とても助けになるメソッドです。

タイムラインで正しい判断や決断を導く

立場が上がるにつれて、ビジネスの判断や決断が難しくなるという悩みを持つ人もたくさんいます。リーダーやマネジメント層の場合は、多くの反対があっても、「自分が正しい」と信じて決断を貫くことも大事なことです。逆に言うと、判断力や決断力が低い人は、キャリアアップがしづらくなるということができます。

たとえ難しくても、重要な判断や決断を自分で下せることが「?自己決定感」につながります。自己決定感を持つには、自己肯定感の「6つの感」すべてを総合的に高めていく必要がありますが、正しい判断や決断を導く効果的な方法もあります。それが、「タイムライン」というメソッドです。

タイムラインとは、「近い未来の望ましい自分の姿をイメージしたうえで、いま何を考えてどうすべきか」を逆算し、やるべきことを自分で決めるためのメソッドです。3カ月後の自分、6カ月後の自分、1年後の自分……という具合に、自分の「こうありたい姿」を明確にして、その地点から現在の自分を評価し、逆算思考で自分をディレクションしていきます。目標を達成したときの感情も書いておくといいでしょう。

リーダーやマネジメント層になると、ビジネス環境の変化などを長期的な視野で捉える必要がありますが、同時に、日々リアルタイムに生じる短期的な判断や決断をスピーディーに行うことも欠かせません。そこで、3年後や5年後まで加えて、短期・中期・長期で自分たちの行く先を明確にできれば、その都度の判断の迷いをなくし、決断のスピードを速めることができます。

それだけでなく、判断や決断に「説得力」が生まれます。「1年後にこの成果を上げたいから、この判断基準に基づいて決断した」と、根拠を明確にして周囲に伝えることができれば、部下やチームメンバーの信用を得やすくなります。自分の人生においても、感覚的な判断でなく、明確な判断基準を持って決断することは、主体的に生きるうえで重要な態度となるでしょう。

同調圧力を逆手にとって「自己有用感」を上げる

誰しも、「自分は何をやっているのだろうか……」と、ふと感じるときがあるものです。本当はほかにやりたいことがあったり、やりたいことをやっていたりしても、人間関係のしがらみや目標達成のプレッシャーで疲れてしまうことがあります。

そんなときは、自己肯定感をつくる「⑥自己有用感」が下がっています。自己有用感とは、自分は何かの役に立っているという感覚のことです。そこで、この自己有用感を高めるために、「ピア・プレッシャー」というメソッドを試してみてください。

「ピア・プレッシャー」とは、同調圧力のこと。これは、自分が何かの行動をすることを周囲の人に宣言する方法で、同調圧力をいいかたちで利用します。悪い同調圧力の場合は、「やらなければならない」と自分を追い詰めがちですが、いい同調圧力なら、「みんなに宣言したから、あとは実行するだけだ!」と、自分に前向きなプレッシャーを与えることができます。いわゆる、三日坊主の対策としても有効です。

どんな仕事であっても、「自分は誰かの役に立っている」と自然に思えれば、毎日の仕事にやりがいや生きがいを持って臨むことができます。そんな人こそ、自分を全肯定して前向きに生きていけるのです。

(構成=岩川悟、辻本圭介 図版作成=木村友彦 撮影=川しまゆうこ)