20日に投開票を迎える参院選に向けて、大手新聞社などが手がける「ボートマッチ」を利用する人も多いのではないだろうか。ジャーナリストの湯浅大輝さんは「質問に答えることでアルゴリズムが『あなたにぴったりな政党』をレコメンドしてくれるこのサービス、『質問が恣意的』『質問文によって賛否が変わる』などという倫理的な課題がある」という――。
選挙で投票する人
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「投票」が“MBTI”の延長になる日

「私、ENTPで“討論者”タイプなんだよね」
「マジで! 私はENFJで“主人公”タイプ。相性とっても良いね」

身の周りで、このような謎解きじみた英単語を聞いたことはないだろうか。この「討論者タイプ」「主人公タイプ」とやらは、MBTIという性格診断の性格の種類で、全部で16のタイプがある。Z世代をはじめとした、デジタルネイティブ世代が「自己紹介」代わりに使っている。

このMBTI、裏側の仕組みはなんのことはない。「あなたは協調性がありますか」「自分に自信がある方ですか」などと聞かれて、ある/ないと答えていくうちに、ユーザーの性格は「冒険家」「擁護者」というふうに決まっていく。

この性格診断自体はMBTIを信じている若い層の間で広がっているだけだから直接的な被害は社会にまだ顕在化していない。「人間の性格は多面的で、質問に答えるだけでは規定できないよ」と諭せば、共感を得られる可能性もある。

ただ、もし「あなたの政治的志向を診断するサイト」が“大衆の共通言語”になる日が来たら、どうだろうか。

「あなたと価値観が近い候補者はこちらです」

すでに、それに近い傾向が見られる。大手新聞社やポータルサイトが展開する「ボートマッチ」と呼ばれるサービスである。ボートマッチは「あなたは外国人労働者を積極的に受け入れるべきだと思いますか」「憲法9条改正に賛成ですか」「同性婚を認めるべきだと思いますか」といった質問に2〜4択で答える。質問数は20〜25程度だ。

全ての質問に答え終わると、「あなたと価値観が近い候補者/政党はこちらです」という画面が表示され、それぞれの候補者/政党と回答者が「何%」一致しているか表示される。ボートマッチを手掛ける各社は、候補者と政党に事前アンケートを用意し、政策アジェンダに対する回答をもらっている。回答をもとに、ユーザーと候補者/政党のマッチング確率を出す、というイメージだ。

「ボートマッチによると、私はA党のBさんを応援するべきなんだって」「ウソ、私はあなたと逆。C党のDさんだった」――。こうした会話が、そう遠くない未来に一般的になっているかもしれない。