寝付けない、夜中に目が覚める、熟眠感がない……年齢を重ねるとどうしても避けられないのが「睡眠」の悩み。明日への活力を生む「快眠」はどうすれば取り戻せるのか。世界的に知られる睡眠学者に聞いた。

安定した睡眠サイクルが「良質な睡眠」を生む

そもそも「良質な眠り」とは、どのような睡眠のことを指すのでしょうか。まずは、睡眠学における定義から説明します。「レム睡眠」や「ノンレム睡眠」という言葉をよく聞くと思いますが、レムとは「Rapid Eye Movements」の頭文字で、その名の通り眼球が素早く動くことが特徴。鮮明な夢を見ることが多い睡眠です。

対するノンレム睡眠は、眠りの深さによって3段階(N1、N2、N3)に分けられます。いわゆる「深い眠り」とは、このノンレム睡眠の一番深い睡眠状態(N3)を指し、「深睡眠」(徐波睡眠)とも呼ばれます。意識のある状態=覚醒と、レム睡眠、3段階のノンレム睡眠。睡眠の質を客観的に評価するにあたっては、主にこれら5段階における脳波の変化をチェックしていきます。

健全な睡眠は、入眠後にノンレム睡眠N1、N2、N3が順に生じ、その後、レム睡眠へ。そのようにしてノンレム睡眠とレム睡眠が交互に訪れ、起床に近づくにつれレム睡眠の割合が増えていきます。よく「重要なのは深いノンレム睡眠。レム睡眠はそこまで必要ない」と考えている人がいますが、これは大きな間違い。ノンレム、レムどちらの睡眠にも重要な役割があります。たとえば、深いノンレム睡眠では心身の回復に重要な成長ホルモンが分泌され、レム睡眠では脳の血流量が増えることなどがわかっています。これらを安定的に繰り返す状態こそ、良質な睡眠といえるのです。

この睡眠サイクルは、年齢とともに変化していきます。特徴的なのは、ノンレム睡眠のN3とレム睡眠が減少すること。ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクル自体も不安定になり、夜中に目が覚める「中途覚醒」が増えていきます(図表1参照)。トータルの睡眠時間もやや減少し、次第に朝型(早寝早起き)へ移行していく傾向も見られます。

【図表1】健常な加齢による睡眠の変化
若い世代は深い睡眠とレム睡眠を安定的に繰り返すが、年齢を重ねると深い睡眠が減ってサイクルが不安定になり、中途覚醒も増える(出典:厚生労働省e-ヘルスネットより編集部作成)

しかし、こうした睡眠サイクルの変化は「健常な加齢現象」です。30代、40代から徐々に始まり、後期高齢者に至るまで変化が続きます。重要なのは、この自然な変化を受け入れること。「若い頃はぐっすり眠れたのに……」と考えすぎると、その心配が逆に不眠を招くこともあります。

皮膚のしみやくすみ死亡リスクも増加

一方、睡眠不足が続いた場合、その生活習慣が老化を加速させることにつながります。わかりやすいところでいえば、皮膚の老化。バリア機能が低下し、しみ、くすみ、しわの増加など、肌の状態が悪化していくことが挙げられます。睡眠が不足すると、肥満・高血圧などメタボリック症候群のリスクも上がります。心血管疾患や認知症などの疾患リスクも増加し、さらには死亡リスクも高まります。

国立がん研究センターによる調査では、睡眠時間は7時間がもっとも死亡リスクが低く、それより短くても長くても死亡リスクは高まるとされています。睡眠時間が8〜9時間より長い人はすでに何らかの健康問題を抱えている可能性が高く、6時間未満の睡眠不足の人は睡眠負債を抱え、さまざまな疾患を引き起こすことで寿命を縮めていると考えられるでしょう。つまり睡眠不足は、ありとあらゆる面で老化を進行させる諸悪の根源ということです。

これらの基本を押さえたうえで、改めて「良質な睡眠」について考えていきましょう。ここで注目したいのが、睡眠評価の「客観軸」と「主観軸」です。客観軸とは、先に説明した脳波を測定することで睡眠の質を評価する方法。対して主観軸は「なかなか寝付けなかった」「起床時にまだ疲れが残っていた」といった、自分の感覚。「よく休めた」「熟眠できた」というのも主観です。睡眠の実態を把握するのが難しいのは、この客観評価と主観評価が必ずしも一致しない点にあります。

たとえば、我々が行った研究では、主観的に「十分な睡眠をとっている」と申告した人のうち、45%が実際には睡眠不足だったという結果でした。逆に、不眠の症状を訴えている人の3分の2が、客観的には問題なく眠れていることも確認されました。ある40代女性の例では、「朝の4時まで眠れなかった。2時、3時、4時に時計を見たので間違いない」という訴えがありました。しかし、その晩に測定した脳波を見てみると、非常に健やかな睡眠サイクルを刻んでいたのです。

これは決してこの女性が嘘をついていたわけではなく、睡眠に対する主観と客観は、このようにしばしば乖離するということです。これを「睡眠誤認」と呼びます。だからこそ、客観的な睡眠計測が重要になってきます。