布団を持たず、ハンバーガーが主食の気象予報士
『ZIP!』(日本テレビ系)のお天気キャスターを務める小林正寿さんに取材をしたいと言った時、編集部の反応はそれほど芳しくなかった。お天気キャスターといえば、「ルックスのいい人がただお天気を解説している」というイメージが強いようで、ビジネスにあまり役に立たないという印象を受けたようだ。
以前は私もそう思っていた。気象予報士にも天気にも興味はなく、ただ小林さんが出版した著書『しゃもじがあれば箸はいらない』(KADOKAWA)が面白いと感じた。同書には、家に布団や食器がない、1日1食(それもハンバーガーがメイン)、ショートスリーパーで天気ばかりチェックする……などの風変わりな生活が描かれている。メディアにとって記事にしやすい内容であった。
そして2023年5月、別媒体で小林さんに取材をした。そのページは著名人が多く登場する連載で、これまで60人近くの俳優、タレント、スポーツ選手、医師などを取材してきたのだが、誰もが名前を知るような人の輝く成功エピソードよりも、私は小林さんが語る仕事への思いにじんとしてしまった。
他の人と何が違うのか?
他の人と何が違うのか。
今この原稿を書きながらも考えているのだが、それは「ブランクがあること」なのかもしれない。小林さんは自宅の外で誰かと一緒に食事ができない「会食恐怖症」(パニック障害)に陥った時期があった。心の病に限らず、体の病も、また介護、育児などによっても、社会から取り残されたように感じることがある。私自身、23歳の時に出産して同時期に心を病み、20代は家から出られない、暗い時間を過ごした。
同じようにブランクがあっても、またどん底にいると感じても、きっと自分にとってベストなステージに立てる時がくる――苦悩した時期を経て、今活躍する小林さんの姿を通し、読者がそんなふうに自分の未来を信じられる原稿を書きたかった。
今年5月、2年ぶりに小林さんに取材をした。改めてパニック障害の時期を問うと、「大学1年生の18歳から8年間、苦しみました」と小林さん。
「『吐いたらどうしよう』などという思いにとらわれて、具合が悪くなってしまい、外で食事ができないんです。友達とはもちろん、自分一人でも外食ができない。自宅以外の慣れない空間で食事をとることがダメなんです。初めは病気だとは思いませんでしたが、だんだんおかしいと感じ……ずっと後にパニック障害とわかります。大学生の間は、外食ができないことは誰にも言いませんでした。サークルにも入らず、飲み会の機会もなかったので、人とごはんを食べずに生活していくことができたのです。『自分はずっとこのままかもしれない……』と鬱々としていました」

