その欲は他者から認められたり、必要とされたり、他者を自分の命令に従わせたりすることで一時的に満たされます。けれども、たとえ一度は満たされたとしても、その実感はたちまち薄れてしまうもの。ゆえに、すぐにまた「かけがえのない自分」を実感したい衝動が頭をもたげ、この繰り返しで欲望は次第にエスカレートしていくのです。
もっと認められたい、もっと必要とされたい、もっと従わせたいという思いが強くなり、「自分の影響力を見せつけたい」欲望がわいてきます。そうなると、上司にこれ見よがしのアピールをしたり、「自分がいなかったら困るでしょう」とばかりにわざと周囲への協力を惜しんだり、部下にやたらと命令を出したりするようになります。その結果、相手から敬遠され、かえって自分の評価を落とすことになってしまうのです。
「かけがえのない自分」というのは、じつは1つの妄想にすぎません。ですが、人は誰でも自己愛が強いナルシシストであり、自分をたいした存在であると思いたがっています。他人からよく見られたいと思う以上に、自分の中で「私は立派な人間」という根拠のないプライドを保ちたくて仕方がないのです。
人はまた、そのようなナルシシズムを認めたがらないものですが、まずは「自己愛にまみれた自分」を自覚することが、悩みから脱却する出発点となります。
ブッダは「世界中探してみても、『自分』より愛しいものはどこにも見つからなかった」と語っています。そして「あらゆる生き物にとって『自分』がいちばん愛しいもの」であると。
自分が愛おしく大切であるのは、生物の生存欲求ともいえます。誰もが「自分がいちばん大事」というナルシシストなのです。だからこそ、自覚することが重要です。人生のあらゆる場面で感じるストレスには、「どうして私のことを尊重しようとしないのか、この私を一体何だと思っているのか」という慢心が深く根ざしていることが多いもの。つまりは自己愛から生じる欲望が、自分を苦しめ悩ませているのだと知りましょう。