※本稿は、豊留菜瑞『忙しさ幻想』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
IQが13ポイント低下する
「30歳までに管理職に……」
「35歳までには結婚を……」
「同期に後れを取るわけには……」
私たちの心の中で、絶え間なく響く声。
それが「焦り」です。
シカゴ大学のムッライナタン教授は興味深い研究結果を発表しました。
人は焦りを感じると、なんとIQが13ポイントも低下するというのです。
これは徹夜明けと同じレベルの能力低下です。
焦れば焦るほど、本来の自分ではなくなっていく。
そうして、「理想の未来」と「今の自分」の間にあるギャップが生まれていく。
それが「焦り」を生み出す源なのです。
しかし、よく考えてみてください。その「理想の未来」は、本当にあなたが望んでいるものでしょうか?
それとも、誰かに見せるための「理想」なのでしょうか?
私たちは、知らず知らずのうちに、
同期と比べて、
世間の常識と照らし合わせて、
SNSの投稿を見て、
自分の人生を評価してしまいがちです。
そして、その比較が「焦り」という幻想を生み出すのです。
そうなのです、本書[『忙しさ幻想』(サンマーク出版)]でご紹介してきた「忙しさ幻想」と同様に、「焦り」もまた、私たちの心が作り出した幻想です。
“焦り”がもたらす悲劇
なぜなら……、
「後れている」という感覚は、誰かと比較することで生まれる幻想であり、
「間に合わない」という不安は、自分で設定した期限による幻想であり、
「取り残される」という恐れは、他人の価値観を自分に押しつけた結果の幻想だからです。
こうした幻想でしかない焦りは、私たちから大切なものを奪っていきます。
本来の自分らしさ。
「今」を楽しむ余裕。
新しいことに挑戦する勇気。
本当にやりたいことを見つける時間。
そして最も痛ましいのは、焦れば焦るほど、かえって前に進めなくなってしまうという現実です。
これを行動経済学では「トンネリング」と呼びます。まるでトンネルの中にいるように、視野が狭くなり、本来の自分の能力を発揮できなくなってしまうのです。