――一方は市場が飽和すると考え、もう一方は新しい市場を生み出せると考える。違いはキュレーション的な発想ができるかどうかだ。

iPadがこれまでなかった市場を喚起したように、キュレーションの大きな特徴は、新しい編集により、新しい市場が生まれることにある。セブン-イレブンの一連の取り組みも、「近くて便利」を具現化するため、売り場を新たに編集したことにより、ミールソリューションという新しい可能性が引き出された。直近の業績で、11年5月の既存店売上高はセブン-イレブンが最も大きな伸びを示している。

また、iPadは必要とされたのではなく、ユーザーが欲したデバイス(機器)であるといわれる。モノ余りの時代には、消費者自身は「こんな商品がほしい」という意見を持たず、現物を見せられて初めて、こんなものがほしかったと気づく。顕在的なニーズに応える商品は誰でもつくれるが、潜在的なニーズ、すなわちウォンツを掘り起こす商品は革新的な取り組みのなかでしか生まれない。

とすれば、受け手の立場に立って、何が「よりよい価値」なのかを問い直し、受け手が欲するコンテンツや機能を絞り込み、新しい価値を的確に伝えられたものだけが強い支持を得ることができる。キュレーションの発想力が競争力を左右する時代に入っていることを認識すべきではないだろうか。

セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。
(岡倉禎志=撮影)
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