経済学者が株式投資で儲けられないワケ
メタ認知があれば、経済学者が株式投資をすればかなり儲かるのではないかと思う。しかしそうはならないのだ。
普通に考えれば、経済のスペシャリストなのだから、かなり高い精度のメタ認知が発揮され、株式投資で儲け、経営者としても経済理論を駆使して、企業業績を伸ばしていけるのではないかと思ってしまう。
実は、かなり不思議なことだが、必ずしも成功をするとは限らないのだ。
20世紀末、高度な金融工学理論を駆使していたアメリカのヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」が、設立からわずか4年で破綻した。
運用チームは“ドリームチーム”と言われる陣容だった。ノーベル経済学賞を受賞した2人の経済学者、マイロン・ショールズとロバート・マートンに加え、ソロモン・ブラザーズの著名な債券トレーダー、ジョン・メリウェザー、取締役にはFRB副議長だったデビッド・マリンズが座っていた。それ以外にもかなりの著名人が役員になっていた。
一番儲けているのは誰なのか
そのメンバーを見て、世界中から資金が集まった。巨大なレバレッジを仕掛けて運用を行い、一時は40パーセントを超える運用益を記録していた。
しかし幸せは長く続かなかった。アジア通貨危機による相場の大変動に対応できず、設立から4年で破綻。市場から退場を迫られた。
経済学者であるにもかかわらず、というべきか、経済学者だからこそ失敗したというべきか……。
人間はそれほどに非合理的な存在なのである。
作家・小川哲さんの小説『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)という短編集の表題作は考えさせられる。
みんな黄金を掴みたいんだけれど、黄金がどこにあるのかわからない。よく見ると、一番儲けているのは、黄金を掘るためのスコップを売っている人というくだりがあって、これは深い洞察だと思った。
黄金を探すという行為は、欲望の総合格闘技みたいなものだ。何が人の欲望を掻き立てるか、その中で利益を得るために何をするべきかを着想するには、深い洞察がないと難しい。経済理論による分析だけでは無理だろう。