「数字を」ではなく「数字で」という視点

ビジネスでは数字をコミュニケーションツールとして使います。しかしその使い方には大きく2パターンに分かれることをご存知でしょうか。

パターンA 「数字を伝える」
(例)先週の売上高は200万円でした。前週比およそ110%です。以上です。

パターンB 「数字で伝える」
(例)売上高は先週から微増。要因は新製品が好調だからと思われます。数字は次のとおりです。売上高200万円。前週比110%。新製品に限定すれば前週比150%。

パターンAはまさに数字を機械的に伝えただけです。その数字から何が言えるのか、だから何なのかについての言及がありません。あなたの感想も、「そんなの見ればわかる」や「だから何なのか?」ではないでしょうか。

一方でパターンBは「全体的に微増。要因は新製品が好調」という主メッセージがあり、それを根拠づけるように数字で説明しています。

このふたつに大きな違いがないように見えるかもしれませんが、私はとても大きな差があると思っています。その差とは、数字を主役として扱うのか、脇役として扱うのかの差です。

ビジネスプレゼンテーション
写真=iStock.com/simonkr
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パターンAは単に数字を伝えているだけであり、ある意味で数字が主役のコミュニケーションです。一方でパターンBは主役となるメッセージがあり、それを補足する形で、まるで脇役のように数字を使っています。

パターンAでコミュニケーションする人物は、数字そのものが根拠だと思ってしまうタイプです。もっとも典型的なのは、数字をただ並べてそれを機械的に読み上げるだけのコミュニケーションをする部下です。

このタイプはとにかく数字を入れて話せば説得力があると思っているタイプであり、思考停止に近い状態の人物であることがほとんどです。そのまま鵜呑みにするのは極めて危険と言えます。

一方でパターンBはその数字の意味が根拠になると思っているタイプです。意味を抽出するためには思考する必要があります。パターンAと真逆であることがお分かりいただけるでしょう。

数字の入ったコミュニケーションには2種類あり、そのいずれであるかを判別することで、その内容が考えられた結果なのかそうでないのかがはっきりわかります。考えていない人間の示す根拠を信用するのはリスクでしかありません。整理するとこのようになります。

【信用できない】数字を伝える人 (数字そのものが根拠)
【信用できる】数字で伝える人 (数字の意味が根拠)

「範囲で説明する」という発想があるか

数字センスのある人はいわゆる統計的な感覚にも優れています。

私はビジネスにおいてもっとも重要な統計的感覚は、範囲で捉えることだと思っています。たとえば統計学では次のような表現で数値の予測を説明することがあります。

「ある数値Aは95%の確率で、○(数値)から□(数値)の範囲に入ると予測されます」
○<A<□ (95%の確率)

私はこれを「範囲の数字」と呼んでいます。今回はビジネスパーソン向けの記事ですから、ここで統計学の学問的な解説をすることはしません。あくまで大雑把で感覚的なものとしてご理解ください。

たとえばある商品がどれくらい売れるかを上司に説明しなければならない場面を想定します。当たり前ですが、その商品がどれくらい売れるかは「やってみなければわからない」という話です。

しかしビジネスでは常にどれくらい売れるかという情報が求められ、そこに根拠が必要になります。正解がないにもかかわらず正解らしき情報が必要になるのです。

そんな場面においてはピンポイントの数字よりは範囲の数字のほうに納得感があるのではないでしょうか。

たとえばポジティブシナリオによって予測した結果を□万円とし、ネガティブシナリオによって予測した結果を○万円とすれば、おそらく○万円から□万円の間になると思われ、よほどのことがない限りこの範囲を超えることはないと説明できるでしょう。

上司の立場にしても、このように範囲で説明されたほうが「最悪のケースがどれくらいか」を想定できるので助かるのではないでしょうか。実際、私は「常に最高のシナリオしか考えていない」という楽観的な経営者や管理職に会ったことはありません。

彼らは常に「最悪のケース」を想定し、それに備える施策を考えている人種です。そして私はそれが健全な姿だと思う立場です。

また、一般論としてビジネスは極めて不確実な世界で行う営みです。ですからあなたも自分の会社の明日の売上高がどれくらいになるのかを正確に(!)予測することは極めて難しいはずです。

数字センスのある人はそのことをよく知っています。ですからそもそも正確に数字を捉えようとは最初から思っていません。ピンポイントの数字ではなく、範囲の数字で説明するほうが自然であり、納得感もあるとわかっているのです。

【信用できない】ピンポイントの数字を根拠にする人
【信用できる】範囲の数字を根拠にする人