反ワクチン論ではなく、これまでの実績を訴える
南出氏は、強い反ワクチン論で知られる参政党の神谷宗幣氏が中心になって立ち上げた「龍馬プロジェクト」にも名前を連ねている。しかし、今回の選挙で神谷氏本人は応援にはやってこなかっただけでなく、立花氏が無料化を掲げた高齢者への新型コロナワクチン定期接種の公費負担問題も選挙戦では論点化を避けた。
この判断の是非は分かれるとは思うが、少なくとも選挙戦略として妥当だった。道すがら、南出陣営の選対幹部とこんな会話になった。
「立花陣営のYouTubeは票が読めないし、こちらとしては後れを取っていることはわかっている」
「だったら神谷氏やその周辺に応援を……?」と彼に問うと、幹部はだまって首を横に振るのだった。
新型コロナワクチン問題を徹底的に避ける代わりに、街頭で訴えたのは実績だった。駅前に図書館を作ったことや、行財政改革の成果、急性期メディカルセンターの開設、そして3期目に向けて中学給食の自校調理化など生活に近い争点を矢継ぎ早に訴えていった。
オーガニック給食なるものを肯定的に語ったところには危うさを感じたものの、幅広く多角的な実績と政策を打ち出せるという現職の強みを最大限に生かすという戦略に舵を切ったことはよくわかった。
「空中戦では相手には勝てない」
今の泉大津市市議会議長で選対の中心にもいた堀口陽一(大阪維新の会)はこんな見立てを示していた。当選5回を数える、元救命救急士はいかにもベテラン議員らしく、険しい表情を崩さないまま具体的な数字と共に選挙戦を語るのである。
「今回ほど票読みが難しい選挙もない。今のところこちらが固めた票は1万3000〜4000票といったところかな。前回と同じくらいの票は出てくると思うが、向こうの票は正直読めない。期日前が増えているから、投票率も上がるだろう。
上がった分がそのまま向こうに流れるということはないと思う。現職は訴えることもたくさんある。(インターネットを中心とした)空中戦では相手には勝てない。ならば、やってきたことを実直に訴えた方がいい。
もし向こうが9000票くらい掘り起こしていれば、かなり差は詰まっているとみたほうがいい。当日の出方次第でどっちに転ぶかわからないくらいの差になってういると考えないといけない。あっちに人は集まっているのは間違いないし、特に駅前エリアなんかは浮動票も多い。だからこそ、この選挙ばかりはどうなるかわからない。私は会議でも厳しい見立てを言ってきたつもりだ」
地元の選挙現場をよく知り尽くし、現職の周囲を固めた議員たちは立花氏のやり方を泡沫扱いせず、甘い想定こそを戒めていたということがわかる重い一言だった。