長年培ってきた「対面での販売」という強み

②EC化の遅れ

ワコール苦境の原因の2つ目は、電子商取引(EC)の遅れだ。

体系化した販売教育を受けた約3500人(全世界約8000人)のビューティー・アドバイザー(BA)による百貨店や量販店での対面での販売スタイルは、ワコールが長年顧客とともに培ってきた強みだ。

収益力も高く、BA一人当たりの店頭売上高(年間)は、百貨店で約2600万円、量販店でも約2300万円に及ぶという。

しかし、こうした百貨店や量販店といった有人店舗での営業員による販売手法は、女性用インナーウェアに限らず、あらゆる業種で、コストやスピードの面から従来の規模を維持することが困難となってきている。

いまや、ECの利用やSNSでの情報収集などが、若い世代向けだけでなく、シニアや富裕層を含めた全ての年代層に、急速に浸透してきている。また、楽天やアマゾンなどによる、ポイント獲得や優良顧客の会員化といった囲い込みも進んでいる。

ワコールも対策をとってはいる。例えば、自社による公式通販サイト「ワコールウェブストア」や、購入、試着、採寸履歴をアプリ内に残すことができる公式アプリ「ワコールカルネ」もあるが、「知らなかった」「使ったことはない」という声も多く認知度は低い。

把握するのも難しいほど多数のブランドが展開

③ブランドの乱立

ワコール苦境の根本的原因の3つ目は、ブランドの乱立だ。

例えば、女性用インナーウェアにおいては、基幹ブランドの「ワコール」だけでなく、「ウイング」「アンフィ」など多種多様なブランドを展開している。2019年秋冬シーズンのブランド数は47だ。

利用者は無論、いまや、社員であってもブランド商品群の全てや相関関係を的確に把握できる者はほとんどいないのではないだろうか。

会社のミーティング
写真=iStock.com/howtogoto
※写真はイメージです

新製品・新ブランドの乱発は、開発費や販売費用の負担、商品ターゲット重複による顧客の奪い合いなども招くことになる。

こうした状況を踏まえ、ワコールでは、選択と集中の一環としてブランド群の整理統廃合を急ピッチで進めてはいる。

ブランド集約を経て2024年秋冬は11ブランド展開となり、品番集約は25年秋冬までに2000品番以下へ集約を目指す方針で、まだ緒についたばかりだ。

現在ワコールHD傘下にある子会社49社及び関連会社8社で、インナーウェア、アウターウェア、スポーツウェアなどに加え、飲食・文化・サービス等の事業が展開されている。女性用インナーウェアにおけるブランドの統廃合だけでなく、他の事業でのブランドの統廃合も必要となろう。また、不採算事業そのものの統廃合に加え、そうした不採算事業を運営する子会社・関連会社の統廃合や売却なども必要となってこよう。