業績低迷を招いた「3つの理由」
2期連続赤字に3回目の早期退職募集に加え、保有する不動産や株式売却を進めるほど、苦境に陥っているワコール。筆者は、その苦境には、①ライフスタイルの変化②ECの遅れ③ブランドの乱立の3つの根本的な原因があるとみている。
①ライフスタイルの変化
ワコールは、主力の国内女性用インナーウェア市場において、優れた縫製技術に裏打ちされたデザインと製品力を持ち、日本人の体型に合った商品ラインナップを用意し、百貨店などで自社専門販売員による対面販売をすることで、価格競争力とブランド力を維持できたことが、強さの源泉だったといえよう。
しかし、長引くデフレによる消費者購買力の低下や、コロナ禍で在宅勤務や自宅で過ごす時間が増えたこともあり、若年層からシニア層に至るまで、デザインやファッション性よりも、着心地の良さやより安い価格を求めるようになった。
こうした消費者の変化を先取りしながらシェアを拡大してきたのが、ユニクロの「ブラトップ」に代表される「カップ付きインナー」などだ。ユニクロやしまむらによるこれらの商品は、大量生産により低価格化を実現しており、高価格帯を得意とするワコールには逆風が続いているのだ。
国内市場は減少傾向で海外市場も苦戦
こうした低価格商品の広がりもあり、矢野経済研究所によると、2022年の女性用インナーウェアの小売市場規模は、前年比99.2%の5535億円に減少し厳しい状況が続いている。2023年のレディスインナーウェア小売市場規模でも、前年比100.1%の5540億円とほぼ横ばいに留まると予測されている。
国内市場が縮小傾向にあるなか、ワコールは海外市場も強化してきた。しかしながら、米国、中国、欧州とも競争環境は激しく、ワコールのブランド力やマーケティング力などが国内ほど生かせていない。実際のところ、米国では一部事業撤退に伴う減損処理を実施しており、中国では事業計画を見直し中だ。また、2024年9月に、新たに約85億円で買収した英国の女性用インナーウェア企業もこの先、どこまで収益貢献するかはまだ不透明な状況だ。