やってもらいたいことリスト、作成のススメ

【畠中】ところで、親亡き後、娘さんが生活する上で必須な各種手続きは、誰に頼もうとか、具体的に考えていらっしゃいますか。

【母親】長男は昔から妹にやさしく接してくれるので、長男に頼むしかないかと考えています。とはいえ、長男も仕事が忙しいですし、長男自身にも子どもがいます。どの程度までなら長男に頼んでよいものか、ずっと悩んでいるのが現実です。

【畠中】ご長男さんにいろいろなことをお願いするとしても、すべてを任せるのは大変すぎますね。たとえば、妹さんが入院することになったとして、すぐに病院に飛んで行って、入院の手続きをしたり、着替えなどを運んだりというのも現実的ではないと考えます。そこで、ご長男さんにやってもらいたいことをリスト化して、どこまでなら対応できそうかを聞いてみてはいかがでしょうか。

【母親】やってもらいたいことのリスト、ですか?

【畠中】表に例を挙げてみましたので、リストを参考にしていただければと思います。たとえば、親御さんが亡くなられた後、家の電気やガスなどのライフラインの名義を変えなければなりません。もし、何の手続きもせず放置したままだと、すべてがストップして、在宅ホームレスのような状態になりかねません。ライフラインについては、親御さんが存命中に、引き落とし口座を娘さんの口座に変更しておくほうが安心です。いずれにしても“親亡き後”に発生しそうな事柄を想定して、リスト化しておくことをおすすめします。

【図表】親が死んだら、兄弟姉妹にやってもらいたいことリスト
筆者作成

兄弟姉妹ができないことは身元保証会社に依頼する

【母親】たしかに、その通りですね。長男は妹にやさしいので、親に何かあったら、面倒を見てくれるはずだと思い込みたかったんですが、長男もやれることに限界はありますよね。

【畠中】ご長男さん自身に、やれることとやれないことを決めていただき、やれないことは、身元保証会社に依頼する方法もあります。身元保証会社と契約すれば、入院の手続きや病院の同行など、身の回りの生活サポートを金銭で請け負ってもらえます。

【母親】そんなシステムがあるんですね。身元保証会社に依頼する場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。

【畠中】亡くなった後のお葬式を含めた死後事務まで依頼する場合は、契約時に200万~300万円くらいは支払うと考えたほうがよいと思います。私が調べた限りでも、身元保証会社は400社以上あり、各社ともサービス内容や料金はまちまちです。中には、ものすごく安い金額で請け負う業者もあるようですが、「亡くなった後の全財産は、この会社(身元保証会社)に遺贈します」といった遺言書のようなものを書かせる悪徳業者も存在するようです。

身元保証会社の業務については監督官庁が決まっておらず、総務省や消費者庁、厚生労働省などが、適宜、行政指導をしているようですが、業者選びは慎重にしなくてはなりません。特に死後事務まで委任する場合は、100万円単位のまとまったお金を預けるので、預託金は会社の運営資金とは分けて管理にしている会社を選ぶのは必須です。

【母親】分けて管理しているというのは、どういうことでしょうか。

【畠中】預託金を弁護士法人が預かっていたり、信託銀行や信託会社に預けていたりするなど、「別管理」にしていることをきちんと証明している身元保証会社であることが大切なんです。以前、数万人も契約者がいた身元保証会社が経営破綻して、預けたお金が一部しか戻らずに社会問題となったことがありますから、身元保証会社は慎重に選ぶ必要があります。そういう意味では、ある程度、営業年数が長い、つまり歴史のある身元保証会社の中から選ぶのが安心かもしれません。

【母親】長男に頼めることは長男に任せて、長男には頼めないことは身元保証会社に依頼するという方法を検討してみます。知的障がいのある娘に「どうやって、手続きのことを教え込もうか」と悩んでいましたが、おっしゃる通り、社会性のない娘に今から教え込むよりも、頼れる第三者にきちんと依頼してしまった方が確実だと思えてきました。

【畠中】そのためには、まず「やってもらいたいことリスト」の作成から着手してください。ご長男さんも、妹の面倒をすべてを任されても困ると思っている可能性もありますが、身元保証会社の協力も得られるとわかれば、少しは肩の荷が軽くなるのではないでしょうか。

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