市場への出荷と直販の二足の草鞋
「漁師って、市場以外に卸していいの!?」
と、邦彦さんは衝撃を受けた。すぐに漁協の事務所に行き、「自分たちで魚を売りたいんだけど、どうしたらいいですか?」と相談。漁協の組合員は「出戻りの若造が、また何か言い出したぞ」と思っただろう。だが、若い漁師の熱意にほだされ、次第にサポートしてくれるようになった。
その後、ITベンチャーが運営するサイト「漁師さんの直送市場」や産地直送通販「ポケットマルシェ」などで漁獲した魚の一部を販売。すると、県内外の飲食店から注文が入り、売り上げが増えた。だが、市場への出荷も続けているため忙しさに拍車がかかった。
「深夜1時には起きて、市場に行く生活でしたね。『しんどすぎる。市場の出荷がなかったら寝れるよね』ってよく2人で話しました」と美保さんは振り返る。
「獲れるだけ獲る」漁業に感じた限界
2020年春、2人にとって転機が訪れる。
新型コロナウイルスの感染拡大により、ネットやSNSからの注文が伸びたのだ。飲食店からの注文はほぼゼロになったが、今まで月数件しかなかった個人客からの注文が200件を超えた。「配送に追われて、21年の市場への出荷は5日だけでした」と邦彦さん。
邦美丸が行う「底引き網漁」は、漁船から伸ばした漁網を曳航し、魚を獲る漁法だ。多くの魚を一度に獲れる良さがある一方、海に漁網を投げ入れて行うため、海底の生態系にダメージを与える可能性も否定できない。そのため、胸上港では週2回ほどすべての漁を休みにして、多くの魚を獲り過ぎないようにしてきた。
その他にも、邦彦さんたちは水産資源を少しでも守ろうと工夫した。漁で利用する網の目は通常23mmと定められているが、邦美丸ではそれよりも粗い34~50mmの網を利用し、できる限り稚魚を獲らないようにしている。その背景には、魚の減少があった。