まずは実際に顔を合わせて価値観のすり合わせをする必要がある。だが、日常的なやり取りについては、テレビ会議システムや電子メール、電話でスピーディにこなすのが効率的だ。

実際、岸田は企画が持ち上がって間もなく大阪へ向かった。クリエイティブプロダクツ事業部ペーパーステーショナリーVU開発グループに属する伊井理恵や、その上司でグループリーダーの村上智子と会い、「どんな商品をつくりたいか」をとことん話し合った。

「実際に岸田さんと会ってみたことで、『エンディングノート』という商品名からイメージするものとはまるで違って、明るいデザインのものなんだなということがよくわかりました」

同世代の伊井が振り返る。岸田が大阪へ出張したのは10年1月。その後は電子メールに資料を添付してやり取りし、それをもとに、電話やテレビ会議システムで打ち合わせを重ねていった。

「当初は週に1回のペース、製品化を正式決定する会議が開かれる5月が近づくころには週に3回くらい、やり取りをしていましたね」(伊井)

そして4月、3人は村上の発案で神戸の老人ホームへヒアリングに出かけた。

「ホームの管理人さんにお話を聞いたあと、近くの喫茶店に入って、試作品に赤字を入れながらそれこそ何時間も『ここを直しましょう』と打ち合わせを続けました。それで商品の骨組みが決まりました」。ふんわりと笑いながら伊井がいう。

すると、東京からテレビ会議で取材に参加していた岸田が口をはさんだ。

「でも、お店には迷惑をかけたかもしれませんね(笑)」

10年9月に発売されたエンディングノートは、遺言書キットを上回るペースで売り上げを伸ばしている。550キロの距離を隔てて、女性たちの温かな笑い声が会議室に響いた。

(文中敬称略)

(的野弘路、熊谷武二=撮影)
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