JR東日本は何を目指しているのか
さて、JR東日本は京葉線の快速、通勤快速の減少や廃止で最終的に何を目指しているであろうか。実はこの点について聞いても答えてもらえなかった。
近年の同社はコロナ禍で低下した収支の改善を急いでおり、鉄道事業の効率化を図るとともに異業種である金融業や不動産業に本格的に進出している。京葉線の収支改善を目的として快速、通勤快速の見直しを実施したのかもしれない。
JR東日本によると、京葉線が2019年度に得た旅客運輸収入は371億6000万円であった。費用や営業損益は明らかにされていないので、国土交通省の「鉄道統計年報」をもとに試算してみたい。
鉄道事業における直接経費となる運送費はJR東日本の場合、2019年度は1兆0726億0717万円であった。
このうち、いくらが京葉線の運送費であったかを推測する一つの方法として旅客人キロ(※)の割合で求めることを考えた。
「鉄道統計年報」によると京葉線の2019年度の旅客人キロは35億7303万7000人キロ、JR東日本全体では1353億8590万6000人キロであったから、全体に対する京葉線分の割合は2.6パーセントで、運送費は283億0771万円、営業利益は88億5229万円だと推測される。
※編集註 旅客人キロとは、輸送した各々の旅客(人)にそれぞれの旅客が乗車した距離を乗じたものの累積で、計算式は、輸送人員(人)×乗車距離(キロメートル)
年間240億円超の支払い
鉄道業界では営業係数と言って100円の収入を得るために必要な費用で営業収支を示す。先に挙げた推測値から営業係数を求めると76だ。
旅客運輸収入と運送費とを用いてJR東日本の2019年度の営業係数を求めると60であった。
したがって、京葉線は利用者数が多く、黒字の路線ではあるものの、JR東日本にとってはたいそう儲かる路線には見えないのかもしれない。
京葉線の収支についてはもう一つJR東日本の頭を悩ます事実が存在する。この路線は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構)から借りていて、2023年度は年間244億4600万円もの貸付料を支払っていたのだ。
JR東日本の在来線は大多数が国鉄から無償で譲渡されたが、それは国鉄自体で建設費を負担した路線に限られる。京葉線は鉄道・運輸機構の前身の日本鉄道建設公団が建設を担当し、国鉄時代から貸付料を支払っていた。そのような経緯があり、JR東日本に引き継がれたいまも貸付料を負担しなければならないのだ。
貸付料は毎年変動はあるものの基本的な水準は同じで、2029年度まで続く。貸付期間が終わっても京葉線がそのままJR東日本の所有物とはならない。鉄道・運輸機構の前身の日本鉄道建設公団が負担した建設費の残りを清算した後、ようやくJR東日本に譲渡される。