2024年6月13日、JR東海とJR西日本はドクターイエローの引退を発表した。新幹線の点検専用車両で、いつ走るか公開されていないため、「見たら幸せになる」ともいわれる。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんが、知られざる車両内部を紹介する――。
新大阪駅に到着したドクターイエロー どこからともなく人々が集まり撮影会が始まった(2006年8月7日)
筆者撮影
新大阪駅に到着したドクターイエロー どこからともなく人々が集まり撮影会が始まった(2006年8月7日)

ドクターイエロー引退発表の衝撃

ドクターイエローが引退するとのニュースが駆け巡ったのは2024(令和6)年6月13日の午前中であった。全国にあまたある鉄道車両のなかでドクターイエローがいかに注目されているかは、引退の情報がこの車両を保有するJR東海、JR西日本からではなく、NHKからスクープとして出されたという点だ。

人気の高いドクターイエローの話題を独占しようと、JR関係者から入手した引退の情報を先行して報じたのである。放送局の狙いは的中し、あまりの反響の大きさにJR東海もJR西日本も当日午後にはドクターイエローの引退を公表せざるを得なくなった。

両社は7両編成のドクターイエローを1編成ずつ保有している。これらのうち、「T4編成」と呼ばれるJR東海保有分は2025(令和7)年1月で、「T5編成」と呼ばれるJR西日本保有分は2027(令和9)年以降の時期でそれぞれ運転を取りやめると発表したのだ。

ここでドクターイエローとは何かを説明しよう。この車両は正式には「新幹線電気軌道総合試験車」という。

東海道・山陽新幹線の軌道、具体的にはレールやまくらぎ、そしてこれらを支える道床どうしょう、さらには架線といった電力設備、ほかには信号装置や通信装置の状態を最高速度時速270キロで走行しながら検査・測定(以下検測という)することのできる車両だ。

走行日や行程は秘密

検測は東京駅から博多駅までの東海道・山陽新幹線が対象となっていて、その頻度は10日に1回程度である。

通常の行程では東京駅―博多駅の下り線の検測を1日目に、翌日には博多駅―東京駅の上り線の検測をそれぞれ行う。1カ月のうち6日間はドクターイエローの姿を東海道・山陽新幹線のどこかで見られる計算だ。

ドクターイエローが走行する日や行程は基本的には秘密だ。JR東海、JR西日本とも、絶対に秘密にしておきたいからではなく、予定がよく変わるために発表しないのだそうだ。

ドクターイエローの「ドクター」とは新幹線の線路や設備を検測できる点に由来する。そして「イエロー」とは車体の色の大部分が黄色であるところから呼ばれるようになった。JR東海によれば、フレッシュイエローというのが黄色の塗色の呼び名だという。

この車両は東海道・山陽新幹線用の営業車両で言うと700系がベースとなっており、先頭車の流線形部分を見ると瓜二つと言える。その700系は1999(平成11)年3月にデビューした車両だ。すでに東海道新幹線からは引退し、山陽新幹線では8両編成で「ひかり」「こだま」として活躍を続けている。

色を除けば外観は700系そのものだが、博多駅寄りから1号車、東京駅寄りが7号車という7両のどのドクターイエローの車内も700系と同じところはほぼない。