ショップ運営型は大成功したJフロントだが、百貨店の原点ともいえる自主運営型も着実に改革の成果が出始めている。今この瞬間、客が一番欲しいと思うものを敏感に察知し、誰よりも早く仕入れ、売る。「本来バイヤーの原点というのは、無から有を生み出すこと」だと、営業本部MD戦略推進室自主事業統括部長・執行役員の冨士ひろ子は語る。

大丸松坂屋百貨店 
自主事業統括部長、執行役員 
冨士ひろ子

入社32年目のベテランである冨士は、現場販売員からの叩き上げだ。81年に入社。大丸神戸店へ配属された。そのわずか5年後、会社で一番若いセールストレーナーに抜擢され現場を離れた。しかし、「人に教えるためにこの会社に入ったのではない」と2年後、雑貨系売り場への販売へ再び戻ることになる。

「お客様と接客して、もっといろんな人の笑顔が見たかったんです。でも、2年間で学んだ販売心理学というものが、後の大きな糧になりました」(冨士)

神戸店での販売員としての生活が戻ったその後、あの阪神大震災が起きた。ライフラインがすべて断たれたため、神戸店へ訪れたのは震災の1週間後だった。瓦礫だらけの街を抜け、神戸店までたどり着いたものの、半壊したその姿を見て、失業を覚悟したという。それでも再建するんだ。この元町に神戸大丸をもう一度つくるんだと、約3カ月で仮店舗オープンまでこぎつけた。

「仮店舗オープンのとき、神戸のお客様に何を今提案したいのか。そのためにはどんな商品がどれくらい必要なのか。展示会も何も見ないで思い描いてみたんです」(冨士)