近年のJフロントの躍進の秘訣は、それほど複雑なものではないように思える。消費者が欲しいものを提供する。提供するためにコストを下げる。そのためにいち早く先手を打つ。いたってシンプルなものだ。「百貨店という旧態依然とした業界はプライドがあって、なかなか新しいことに挑戦できないことがある。『百貨店なのに、百貨店だから』、これが私たちの使命です」と東京店店長の藤野は語る。ファッションビル、ショッピングセンターなど業際(業界と業界の境目)はもはやなくなっていると言っても過言ではない現代で、多くの百貨店は、いまだ過去にとらわれたままなのだろう。
11年に鳴り物入りでオープンしたJR大阪三越伊勢丹も、オープン翌月から苦戦が続いている。JRは「阪急との差別化」という要請を三越伊勢丹に出しているが、自主運営中心の「伊勢丹型」運営にこだわり続けている。新宿伊勢丹の成功例を落とし込んだ形だが、目標売り上げ達成はいまだ遠い。
奥田は「よく新聞記者の方なんかに、小売り型はよくて、テナント型は悪だと、善と悪にまで分けられますが、私はそんなことはないと思います。これがお客様のニーズに応えた結果なんです」と言った。奥田のみならず、社員一同口を揃えるのは「お客様のため」。どの部署にいても、見据える先は同じところである。
果敢に「脱百貨店」に挑戦するために、人気ブランドの誘致、地域に合った店舗づくり、マネジメントをしているが、それらはすべてお客様の目線に立つという百貨店本来の姿に戻ろうという試みにも見える。
「お客様の目線を忘れた古い慣習や固定観念はどんどん捨て去らなくてはなりません。だけど、百貨店マンのDNAは脈々と受け継がれていくし、受け継いでもらわないと困ります」と、冨士はまっすぐとそう話した。
(文中敬称略)
(原貴彦、大野真也、小倉和徳、小原孝博=撮影)