初日は16人を移送、ところが…
そうするうちに、長らくこのメローニ氏のプロジェクトに反対していたEUの欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長も、ようやく理解を示したかのように見えた。しかし、すぐに、実はそうではなかったことがわかる。というのも、氏が各国に宛てた書簡には、「どの国が安全であるかは、EUの全加盟国で決めなければならない」という文言があり(これまでは各国が独自に、どこが安全な国かを決めていた)、それがまもなくメローニ首相を憤慨させることになるのである。
ちなみに、現在のEUでは、フォン・デア・ライエン委員長に対する批判は日に日に増しており、メローニ首相もその先鋒に立つ一人だ。一方、メローニ政権はこれまで、難民の数を減らすという公約を着実に実行に移しており、国民の大半が氏を支持しているという直近のアンケートも出ている。自ずとこの2人は仲が良くない。
さて、10月15日はいわばアルバニアの審査センターの杮落としで、早朝に16人の難民志望者が到着。そのうち2人は未成年という理由で、もう2人は健康上の理由でイタリアに送られたが、残りの12人が収容された。ところが、4日後の19日、その12人(エジプト人とバングラデシュ人)もイタリア海軍がイタリアに移送し、新しい審査センターは、再び空っぽになってしまった。
ドイツの負担はすでに4兆円規模に拡大
理由は、ローマの裁判所が「エジプトとバングラデシュは安全な国とは言えない」と判断したこと。だから、審査はEU域内(この場合イタリア)で行われなければならないそうだ。イタリア政府はこれを、左翼の裁判所による政治的判決だとし、最高裁まで行っても争う構えだ。ちなみに、エジプトとバングラデシュは、ドイツでも「安全な国」と位置付けられている。
なお、イタリア政府が裁判所を左翼だというのは、まるで根拠のないことでもない。例えば現副首相のサルヴィーニ氏は、内相だった時代に難民を何百人も積んだNGO船の入港を拒んだことで訴えられており、場合によっては6年の懲役になる可能性もあるという。判決はクリスマス前に出る予定だ。
一方のドイツ。イタリアに上陸した難民の多くは、当然、ザルのようなドイツ国境を目指すため、ドイツが抱えている問題はすでに多い。治安の悪化はもちろん、膨大な経済的負担。統計データ会社Statistaの資料によれば、23年、移民・難民にかかったコストは297億ユーロ(現行レートで約4.6兆円)。
また、ドイツ政府は、難民と認められた人には家族の呼び寄せも許可しているため、これからは、2015年、16年に入った難民の家族がどんどんやってくる。そして、彼らはまず社会保障にぶら下がるため、当面、ドイツの納税者の負担が減る見通しはない。