アフリカに一番近いイタリアの島に難民が流れ込む
しかも、難民として認められなくても仮の滞在ビザが発行され、そのまま残れるケースも多い。母国送還がなされない理由はさまざまで、例えば、難民の母国を特定できないとか、犯罪者の場合は母国が引き取りを拒否するとか(犯罪者はどこの国でもお荷物)。
しかし、真の理由は、政府が母国送還などしたくないからだろう。特に緑の党は、婦女暴行犯や殺人犯でさえ、母国で公正な扱いを受けられないかもしれないとして、特に死刑のある国へは送還しない方針を貫く。法治国家ドイツはそんなところに人を送り返してはいけないというのが、彼らの“正論”だ。
また、社民党は社民党で、23年の党大会で、地中海での難民救助の支援を続けることを確認。地中海ではここ10年以上、難民から大金を毟り取り、ボートに乗せて地中海に送り出す犯罪グループと、漂流している難民を大型船で“救助”してイタリアに運ぶNGOとの連携プレーが、密航幇助として大きな問題になっている。そして、そのNGO船の船籍の一番多いのがドイツで、しかもドイツ政府がそれを資金援助しているため、当然、イタリア政府は怒った。昨年、イタリアには陸海合わせて16万人近くの難民が侵入している。
首相が決断した難民の「捕獲・移送計画」
そのイタリアのメローニ首相が、1年も前から着手していたのが、難民審査をEUの国境外で行うという計画。メローニ首相は地中海の向かいのアルバニアに話を持ちかけ、単独でこれを進めた。その結果、アルバニア政府は、審査の間に限り、難民志願者を受け入れることに同意。こうして、北部のジャデルという寒村に、難民審査センターが建設された。収容可能人数は3000人。このプロジェクトにEUから6億7000万ユーロの補助が出ている。
具体的には、イタリアの国境警察、あるいは海軍が、イタリアに向かっている難民を海上で捕獲し、同センターに移送する。対象者は、安全と認定されている国(例えばアルジェリア、モロッコ、エジプト、パキスタンなど)の出身者で、成人男子のみ。つまり、申請が通らないと思われるグループ。
ここで30日以内に審査を終え、難民と認められた人だけがイタリアに送られ、それ以外は母国送還というシナリオだ。目的は、難民の出航モチベーションを減退させ、その結果、違法入国者を減らすこと。現在は、違法に入国し、難民資格を得られなくても、その8割以上がEUを去らないため(ドイツの場合は9割以上)、本を絶とうというわけだ。