「ヨーロッパのシリコンバレーになる!」はずが…
前回のコラムで、ドイツ政府が大枚を叩いて米インテルを誘致する話を書いた。
インテル社が、ザクセン=アンハルト州の州都であるマクデブルクに300億ユーロを投資し、一大チップ工場を建設する。そして、そのうちのほぼ100億ユーロをドイツ政府が補助する、というのがその内容だ。
ショルツ首相、インテル社のゲルシンガーCEOらがベルリンで協定書に署名し、力強く握手をしたのが6月19日。ショルツ首相曰く、「ドイツはヨーロッパのシリコンバレーになる!」と胸を張り、疑いなど挟ませないと言わんばかりの不遜な笑みを浮かべた。
さらに8月28日には、ハーベック経済・気候保護相が「インテル誘致の認可は、完全に予定通りに進行」と太鼓判。インテルの敷地は400ヘクタールだが、州はそれに隣接してハイテクパークの建設を予定し、700ヘクタールを3000万ユーロで購入していた。
ここには、インテルの下請けとなるハイテク企業のほか、マクデブルク大学の研究施設やスポーツ施設も入る予定だという。インテルとハイテクパークの敷地に接続する新しい道路の建設には390万ユーロの予算が組まれ、すでに8月17日、起工式が終わっていた。
まさかの「2年間凍結」に大騒ぎ
また、これら未来の工場群に電気や水を供給し、さらに、市民に熱や水を供給するための施設も、同時に建設されるという。お役所仕事が進まないことで有名なドイツで、このようにスムーズにことが進むのは、まさに稀代の出来事だ。これで雇用が増え、景気も向上するはずだと、政府も、州も、市も、参入する関連産業も、皆が大いにこのプロジェクトに沸いた。
ところが9月16日、インテルは突然、工場の建設を2年間凍結すると発表。マクデブルク周辺はもちろん、首都ベルリンの天地までが激しく動転した。
建設の認可の有効期限がまさに2年。もちろん、インテル社がその期限内に延長を申請すれば、6年まで延ばせるという。ただ、誰が、そのような先の見えない話に付いていけるだろう?
ライナー・ハーゼロフ州首相は、「われわれはすべて正しく進めた」と苦々しい顔で記者会見。インテルの話が出て以来、産業脆弱な同州に湧き起こっていた、勃興ともいえる高揚の気運が、今、一瞬でしぼもうとしているのだから、苦々しくもなるだろう。「今後もインテルが来るという前提でプロジェクトは進める」と言いつつも、失望と怒りを隠せなかった。