※本稿は、中野ジェームズ修一『すごい股関節 柔らかさ・なめらかさ・動かしやすさをつくる』(日経BP)の一部を再編集したものです。
筋肉が変わると、骨盤の向きも変わる
股関節のトラッキング(関節の動き方や動きの軌跡)が不安定になる要因の1つに、骨盤の「ゆがみ」があります。
ここでいうゆがみとは、骨そのものがゆがんで変形しているのではなく、骨盤が前方に傾いたり後方に傾いたりする状態です。前者を「骨盤前傾」、後者を「骨盤後傾」といいます。
ゆがみの背景には、運動不足や活動量の低下による筋力や柔軟性の低下があります。
骨盤には、大腿四頭筋やハムストリングスをはじめ、下肢の筋肉の多くが付着しています。ですから、それらの筋肉が硬くなったり、力を出せなくなったり、バランスが悪くなったりすると、骨盤の向きも変わってしまうのです。
骨盤のゆがみは姿勢にも現れます。骨盤が過剰に前傾している人は腰を反った姿勢になりがちで、後傾している人はおなかの力が抜けた姿勢になりがちです。つまり、骨盤過前傾の人は、まっすぐ立っているつもりでも股関節が少し屈曲していて、骨盤後傾の人は逆に少し伸展しているのです。
まっすぐ立っていない人のリスク
本書の第1章で、人間の股関節は直立二足歩行に完全には対応できていない、という話をしました。まっすぐに立った状態だと、大腿骨頭の球状の部分が骨盤の寛骨臼から少しはみ出ていて、骨の形状という観点から考えると、四つん這いの姿勢のほうが安定するというわけです。
ところが、股関節の軟骨という観点から考えると、まっすぐ立った姿勢のほうが有利です。まっすぐ立った姿勢だと、股関節の軟骨が最も厚いところに圧力がかかるからです。
ということは、骨盤が前傾して股関節が屈曲している人は、軟骨が薄いところに圧力がかかり、骨と骨がぶつかる衝撃で違和感や痛みが生じる恐れがあるということになります。