【横田】 今回私は「諦めない」というキーワードを打ち出しています。中でも刈り取りのところで諦めないのではなく、種まきのところで、関係をつくる部分を諦めないことが大事だと思うのです。

【泉谷】 私もそう思います。諦めない人は、1つには人を喜ばせることに生きがいを感じる人ですね。もう1つ、自分の暮らしに対して愛情が深い人は、目標に対して執念を持っています。

また、自分の成長を楽しんでいる人も容易に諦めません。自分はもっとできるはずだという気持ちがあるから、自分に対して諦めないのです。

逆にいうと、諦める人は他人ではなく自分のせいで諦めている。ですから自分に対して諦めないということが一番大事だと思います。私自身もそういう生き方をしてきたつもりです。

【横田】 自分を諦めないためには、何が必要ですか?

【泉谷】 自分は何によって食べているのか、また人生において何を目指しているのか。現実的なことと抽象的なこと、この2つを意識することです。

【横田】 最近、いろいろな営業マンとお会いして聞かされるのが「目指すものが見えない」という悩みです。まずはここを直さなければいけないですね。何がいけないのでしょう。

【泉谷】 自分を主人公にしていないからだと思います。世の中や他人がどうであれ、俺はこうしたい。そういう意志を持たなければならないのに、いまはすぐ他人のことを語ってしまう。自分の問題なのに、環境や他人を主人公にする。自分を諦めてしまうのです。

物事を「できる」と考えるか、「できない」と考えるかの違いでもあります。たとえば営業は、バリューチェーンの中でどんな価値を生んでいるのか。

研究開発から生産、マーケティングとあるなかで、一番下流に位置するのが営業ですが、単に売り子であって価値を生まないと考えるのが諦める人で、もちろん成長しません。

一方、諦めない人は、どうにかして価値を生んでやるぞと考える。そういう「思い」のある人です。自分の職に対するとらえ方がまったく違う。そこが一番大事なところだと思います。

アサヒグループホールディングス社長 
泉谷直木 

1948年、京都府生まれ。72年京都産業大学法学部卒業後、アサヒビール入社。広報部長、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。06年には常務酒類本部長、09年専務と昇格。10年3月にアサヒビール社長に就任。2011年2月、アサヒグループの持ち株会社制への移行に伴い、同年7月1日よりアサヒグループホールディングス社長に就任。
カーナープロダクト代表取締役 
横田雅俊 

長野県生まれ。工学部にて設計を専攻。設計士として活躍後、外資系ISO審査機関で営業職を経験。「最年少」「最短」「最高」記録を更新し、世界8カ国2300人のトップセールスとなる。その後営業に特化したコンサルティングファーム、カーナープロダクトを設立。「利益に直結させる」をモットーに数多くの企業の営業力強化に携わる。
(面澤淳市=構成 的野弘路=撮影)
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