営業の世界において成功するために必要な要因とは何か?

そう尋ねると、多くの人が「営業センス」と答える。売れる営業担当者は「彼には営業センスがある」と称えられ、売れない営業担当者は「あいつは営業センスがないからダメだ」と評される。

図1:9割の人が「営業センスが重要」と考えている
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図1:9割の人が「営業センスが重要」と考えている

実際、営業マンを対象に行った意識調査で「営業のセンスは重要だと思いますか?」と質問したところ、「はい」と答えた人は約88%、「いいえ」と答えた人は約6%。残りは「どちらでもない」であった。実に9割近くの人が「営業のセンスが重要」と考えているのだ(図1)。

では、「営業センス」とはいったい何だろうか。私たちは「はい」と答えた中から50人を選び、「営業のセンスとは何ですか?」と追跡調査をかけてみた。果たしてその結果は、誰も明確に答えることができなかった。

つまり、多くの人はそれが何を意味しているのかよくわかっていないのに、売れる理由、売れない理由を「営業センス」に求めているのである。

営業変革のプロフェッショナルとして、営業のあらゆる側面を科学的に解明することを使命とする私たちカーナープロダクトでは、この「営業のセンスとは何か?」という問題の解明に長い間、取り組んできた。

重要と感じつつも、その正体がわからない「営業センス」を科学的に解き明かし、誰もが実践できるノウハウとして提示できれば、努力を成果に結びつけられるからだ。これが解明されたら、真摯に営業という仕事に取り組み、試行錯誤を繰り返しているのになかなか成果が上がらない営業担当者や営業組織にとって、非常に有益なものになるはずである。

そもそも私たちが営業センスの解明に取り組み始めたのは、ある有名企業の経営者からのご相談が出発点だった。この方は叩き上げの営業出身で、優秀な営業担当者を採用し最強の営業チームをつくろうと考えていたのだが、いざ実行の段階で大きな壁にぶつかっていた。

「『営業はセンスだ』とずっと私は考えてきた。でも営業センスのある人を採用しようと思い、『営業センスとは何か?』と考えはじめたら、まったくわからなくなってしまった」

この経営者は真剣に悩んでいた。

そこで私たちが最初に取り組んだのは、営業に関する書籍のリサーチであった。

トップセールスや営業コンサルタントが執筆した本、あるいは彼らを取材して分析した本は、優に数百冊はある。しかし、目を通してみると主張している内容はバラバラで調査も不十分。これでは営業センスの正体を解き明かすことはできない。

次に取り組んだのが、トップセールスに対するヒアリング調査だ。トップセールスになるための共通項を見出せれば、そこに営業センスの正体が隠されているはずである。

しかし、調査を始めてまもなく私たちは混乱し、分析ができなくなってしまった。というのは、トップセールスはどの人もまったくタイプが異なっていたからだ。

性格は「明るい人」も「暗い人」もいる。「人と話すのが好きな人」も「嫌いな人」もいる。営業方法も「顧客密着型の人」から「電話だけで契約を獲得してしまう人」まで千差万別。生まれ持った資質も、育った環境も、学歴も職歴も違うのだ。

五里霧中の時期が2年半以上続いた。時には「営業センスを科学的に分析するなど不可能ではないか……」と思いかけたこともある。

以前、私が勤務していた外資系企業では、セールスマニュアルの表紙に“Sales is Art”と書かれていた。「営業は芸術である」、だから決まった答えはない。それぞれのアートを自分で描くのがセールスの役割である――。そんな意味の言葉が書いてあったということが頭をよぎった。

(構成=宮内 健 撮影=鷹尾 茂 ※図版は取材をもとに編集部作成)