注意する必要があるのは、「感情を読む」行為と「感情移入」は似て非なるものということ。感情を読むとは「この人はこう思っているのではないか?」と推測することだ。その程度の努力ならやっている、という営業担当者はたくさんいるだろう。
これに対して感情移入はまず相手の立場や感情に寄り添い、「自分が同じ立場ならこう感じ、こう思う」と共感することだ(図4)。
共感すると、自ずと「次はこういう行動をするだろう」と相手の動きが見えてくる。相手の動きが見えれば、先手を打って的確な対応ができるようになる。
人間はロジックだけで動いているわけではない。感情で行動は大きく変わる。したがって相手の感情の動きまでつかんでいないと、的確なアプローチはできない。
また、共感をベースに置くことで、たとえば顧客の立場ならこうしてほしいだろうといったように自然に自分の内側からモチベーションが湧き出てくる効果もある。
トップセールスと下位セールスのアプローチの違いを見ていると、プロセスにそれほど大きな違いはない。決定的に異なるのはアクションのタイミングだ。
顧客が何を考え、どう動こうとしているのかを理解してアプローチしている人は、先手を打ってアクションすることができる。ところが顧客の考えや動きをわかっていない人は、すべてが後手にまわってしまい「顧客に言われてから行動する」対処型のアプローチしかできなくなってしまう。
新人営業担当者がいきなり大口契約を獲得する、いわゆるビギナーズラックが起こることがある。しかしよくアプローチを分析してみると契約を獲得できた理由がきちんとあり、多くの場合単なるラッキーではない。
新人は目の前のお客さまに一生懸命対応しようとする。頭の中は常に顧客のことでいっぱいで、「お客さまは何を望んでいるのだろうか」といつも考えている。その結果、顧客の考え方や感情を理解し、一番良いタイミングでアプローチできるようになるのだ。
加えて、新人の感情移入しようとする努力は、経験不足を超えて顧客の心を動かし、「この人から買いたい」という気持ちにさせる。時には顧客が親心のような気持ちを抱き、アドバイスをしたり顧客を紹介したりして、一人前に育てようと支援することもある。顧客をそこまで動かすのは、やはり「感情移入する姿勢」なのだ。
ところが「理由のあるビギナーズラック」を起こした新人営業担当者でも、しばらくするとスランプに陥り、売れなくなってしまうことがよくある。
その理由は、契約獲得が続き多忙になると顧客のことを考える時間がなくなり、仕事をこなすだけで精一杯になってしまうことだ。感情移入が不足し、顧客への密着度が低下するために、成果にムラが生まれるのである。