症状のない早期がんは発見しづらい
日本人の死因の第1位は「悪性新生物」――つまり「がん」です。がんは恐ろしい病気ですが、早期に発見すれば治癒の可能性が高まります。しかし、ほとんど症状のない早期のがんは、検査を受けるきっかけがなければ見つけるのが難しいものです。
ときに「高血圧」や「糖尿病」などの慢性疾患で定期的に通院している患者さんに突然、進行したがんが見つかることがあります。突然といっても、それは見つかった経緯が急なだけ。実際には、がん細胞が生じて大きくなり症状を引き起こすまでには、数年から十数年の時がかかっています。通院中にがん細胞が生じたかもしれませんし、他の疾患が見つかって通院しはじめたときには既にごく小さながんはあったのかもしれません。
そんなとき、通院していただけに「なぜ早期発見できなかったのか」「もしかして見落とされたのではないか」「何かミスがあったのではないか」と、患者さんやそのご家族が疑問に思われるのは当然のこと。かかりつけ医を信頼してくださっていたがゆえに、そう思われるのだろうと思います。しかし個々のケースにもよりますが、一般的には症状がない早期のがんを定期の通院で発見するのは非常に難しいと言わざるを得ません。
なぜ他疾患の診察で見つからないのか
さて、定期的な通院を要する代表的な慢性疾患といえば、先にも例に挙げた高血圧を思い浮かべる人が多いでしょう。高血圧の患者さんの定期受診時には、「血圧測定」「心電図検査」「胸部レントゲン」「血液検査」などを行います。
これらの検査の目的は、高血圧が引き起こす可能性のある「心臓病」がないか、また「腎機能」「肝機能」「コレステロール」の値を評価することであって、がんを早期に発見することではありません。たまたま胸部レントゲンで肺がんが見つかったり、血液検査で判明した貧血の進行をきっかけに「胃がん」や「大腸がん」の診断につながったりすることもありますが、あくまで例外的なケースです。
血液検査をしていれば、がんを早期発見できると誤解されている方もいますが、実際にはその可能性はきわめて低いでしょう。がんの治療後のフォローアップ中でもない限り、定期受診で腫瘍マーカーは測定しませんし、そもそも腫瘍マーカーは無症状のがんの早期発見には向いていません。
そのほか少量の採血でさまざまながんがわかると称する検査もありますが、現在のところ、がん検診に応用できる段階には至っていません。CTやMRIを受ければがんを早期発見できるかもしれませんが、無症状の場合、そうした検査を保険診療で行うことはできないのです。