検診の合間に進行する「中間期がん」
ただし、がん検診を受けていれば、絶対に大丈夫というわけではありません。「中間期がん」といって、検診で異常を指摘されなかったのに、次の検診までの間に進行したがんが発見されるケースがあります。
乳がんの治療中であることを先日発表したタレントの方は、毎年、人間ドックを受診していたにもかかわらず、胸の違和感という自覚症状がきっかけで診断につながったそうです。一般的に、検診で発見されるがんと比べて中間期がんは進行が早く、予後が悪いとされています。
中間期がんのリスクを心配して、推奨されているマンモグラフィ(乳房X線検査)に加え、超音波検査やMRI、PET検査を追加で受ける方もいらっしゃいますが、現時点では、これらの追加検査が乳がんによる死亡を減らすという科学的証拠はありません。追加検査が乳がん死のリスクを減らす可能性もありますが、そうでない可能性もあります。さらに、これらの追加検査は高額で補助がないこともあり、積極的におすすめはしません。
こうした医学の限界について述べると、「がん検診を受けてもがんで死ぬことがあるなら、検診を受ける意味がない」と誤解する方もいます。確かに100%死を防げないと検診を意味がないと考える人にとっては無駄かもしれませんが、がんで死ぬ確率を少しでも減らしたいと考える人にとっては無駄ではありません。
それでも「がん検診」はリスクを下げる
医学の限界といえば、がんに限らず、心筋梗塞などの心血管障害も100%防ぐことはできません。高血圧で定期的に通院し、きちんと薬を飲み、健康的な生活をしていても、心筋梗塞になるときはなります。一方で高血圧を放置していても、心筋梗塞にならない人はなりません。心筋梗塞のなりやすさには高血圧以外にもさまざまな要因はありますが、いずれにせよ絶対に心筋梗塞にならないようにする治療法は存在しないのです。
それでも高血圧を治療したほうが、放置した場合と比べて、心筋梗塞になる確率は間違いなく下がります。それなのに、医師が「私自身が200mmHg以上の血圧を何年も放っておいて平気だった」などと書いた記事は人気があるようです。一方で「血圧は下げないより下げたほうが心筋梗塞になる確率を減らすことができるが、それでも100%防げるわけではない」と事実を書いた記事は注目されません。
医学的には間違っていても「血圧は下げなくてもいい」という主張のほうが単純でわかりやすく手間もかからず、都合がいいから、人々に受け入れやすいのかもしれません。しかし自分の健康と命に関することですから、簡単でわかりやすい話に飛びつくのではなく、少し複雑であってもしっかり向き合うほうがいいと私は思います。
どのような方法を取っても、不幸な結果を完全に避けることはできませんが、リスクを減らすための方法はたくさんあります。その中から無理なく実行できる対策を取り入れることが大切です。たとえ、それぞれの対策の効果は小さいかもしれませんが、それでもリスクを軽減するための努力には価値があると思います。自分の健康は自分自身で守りましょう!