老親の資産
南田さんは1年ほど前から施設の下見を始めていたので、すぐに目星をつけていた施設の見学に父親を連れて行った。最近の有料老人ホームは父親のイメージとずいぶん違ったようで、前向きに考えてくれるようになった。
今後の資金繰りや、遺産相続の話し合いを始める。
「今の資産状況を教えてほしい」と南田さんが切り出すと、父親は「まとめてあるよ」と言って分厚い冊子を持ってきた。父親直筆の難読な冊子には、自宅と、両親が所有している小さなマンション、株券、定期預金などの資産が書かれていた。それを基に南田さんは、司法書士兼行政書士の無料相談を受けた。
母親を入所させれば、父親のひとり暮らしが始まる。だが、死ぬまでひとり暮らしを続けるのは現実的ではない。父親は遠慮して、南田さんの家での同居はしないと言う。
「なら、その時は施設に入ってもらいたい」と南田さんは伝えた。
「母の入所後、父はしばらく一人で羽を伸ばし、独居生活が大変になってきたら、母と同じ施設に入るという道筋を立て、父もそれに納得しました。また、老人ホームは思ったよりお金がかかります。父は、施設代捻出のため、将来家を売却することも賛成してくれました」
母親は、当初南田さんが目をつけていたグループホームには入所できなかった。状態が悪化しすぎてしまったためだ。
「以前、精神科医から、『グループホームでは、状態がひどすぎると他の入居者さんと共同で生活するのが難しいと判断されて、入居を断られる場合がありますよ』と言われたのですが、その時はピンときませんでした。でもようやく言われた意味がわかりました」
父親が入ってもいいと思える施設が見つかり、「夫婦2人で入所しても資金繰りは大丈夫」という算段がついたため、申し込みをすると、すぐに母親は入所することができた。