マーケティングを成功させるにはどうすればいいのか。とあるマーケティング部門の若手女性社員、黒鳥ひながその秘密を探る鈴木みそさんの新著『黒鳥ひなのマーケティングファイル』(日経BP)より、第3話「丸亀製麺はなぜ愛されるのか」をお届けする――。
利用客で賑わうセルフ式うどん店最大手の「丸亀製麺」
写真=共同通信社
利用客で賑わうセルフ式うどん店最大手の「丸亀製麺」(=高松市、2012年2月7日)

「3つの非効率」こそ強み

苦境の外食産業の中で、業績好調を続ける丸亀製麺。その理由は、商品の魅力に加え、顧客データの分析などを通して顧客に“感動”を届けるマーケティング巧者であることだ。ここ数年ではこれまでアピールしてきた“旨さ”に加え、「シェイクうどん」など“楽しさ”を追求した新製品を投入して、これまで捉え切れていなかった顧客層も開拓している。そんな丸亀製麺の考え方と実際のマーケティングのすごさはどこにあるのか。

同社が重視するポイントは3つある。(1)一軒一軒が製麺所であること(2)手作り、できたてのうどんを提供すること(3)おせっかいに代表される人の力、だ。

本来、効率的に飲食店を運営するのであれば、うどんは仕入れて売ったほうが効率はいいし、接客はマニュアル化して均一化したほうがやりやすい。しかし、丸亀製?はそれとは逆張りの戦略をとった。「人が人をもてなすかかわりに飲食店の原点がある」と考え、なによりも顧客の体験価値を重視したのである。

「顧客満足度」を店舗に即フィードバック

丸亀製麺を運営するトリドール・ホールディングスの粟田貴也社長は「丸亀製麺で変えてはいけないことは何かと言えば、その一つはやっぱり非合理であること。手づくり・できたてを貫いているところにある」という。手間暇がかかって非合理なほど、参入障壁は高くなる。ここが丸亀製麺の強みである。

鈴木みそ『黒鳥ひなのマーケティングファイル』(日経BP)
鈴木みそ『黒鳥ひなのマーケティングファイル』(日経BP)

強さの秘密はもう一つある。それは同社の「データ戦略」である。丸亀製麺ではアプリで顧客の食事体験についてアンケートを取り、顧客満足度を点数化。結果を毎日3回、15時、18時、21時に店舗の端末に配信している。食べたその日の感想が店舗にフィードバックされるのである。そのデータを見て、店舗は次の接客にすぐ活かす。データを活用して顧客体験のPDCAを高速に回しているのだ。

「非効率接客」というアナログの強みと、「データを活用した高速PDCA」というデジタルの強み。その2つをうまく融合していることが丸亀製麺が成功している秘密である。