鉄分が足りなくなる「かくれ貧血」

熱中症や夏バテの予防法として、屋外では日傘や帽子を着用する、室内ではエアコンや扇風機を使う、そして汗で失われる水分と塩分をこまめに補給することが推奨されています。

しかし、実は熱中症対策はこれだけでは不十分です。暑さによって体内では鉄分も不足し、熱中症・夏バテリスクを高める「かくれ貧血」を引き起こすためです。

「かくれ貧血」とは、健康診断などの血液検査の結果では貧血の指摘を受けていないにもかかわらず、鉄欠乏、いわゆる体内の鉄分の不足がさまざまな症状の原因になっている状態のことをいいます。血液検査で異常がないために、気づかれないので「かくれ貧血」といわれています。

汗をかいている女性
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです

「かくれ貧血」を引き起こす要素として、主に以下の4つが挙げられます。

①発汗

発汗は体温調節のために重要ですが、汗の中には小さな量の鉄分が含まれています。特に暑い環境下や激しい運動を行った際には、大量の汗が分泌され、その中に含まれる微量の鉄分が失われていきます。長時間または頻繁に発汗を伴う活動をすると、体内の鉄分が減少し、鉄欠乏症のリスクが高まります。

②食欲不振

夏の暑さによる体調不良は、食欲不振や消化不良を引き起こすことがあります。食欲不振により、鉄分や他の重要な栄養素の摂取量が減少する可能性があります。

③高温

高温の環境下では、腸管の血流が低下し、鉄分の吸収率が一時的に低下することがあります。鉄分の吸収率が低下すると、体内での鉄分の利用が低下し、鉄欠乏症のリスクが増加します。

④炎症

高温下での運動や暑い環境にさらされることで、体内で炎症反応が増加します。炎症反応が活発になると、体内の鉄の代謝が変化し、鉄分が組織に移行しやすくなり、鉄欠乏症のリスクが高まります。

全身に酸素を運搬できなくなると…

次に、鉄欠乏症がなぜ熱中症や夏バテにつながるのか、少し専門的な話になりますが解説します。

鉄とヘモグロビンとの関係

まず、鉄は体内に酸素を運ぶために重要なヘモグロビンの主要な構成要素です。このヘモグロビンは赤血球内に存在し、酸素の運搬に重要な役割を果たしています。酸素は細胞のエネルギー代謝に不可欠な役割を担っており、特に筋肉や脳などの組織でのエネルギー産生に必要です。

ですから、鉄欠乏症の状態では、ヘモグロビンの合成が低下し、全身への酸素の運搬能力が低下することにより、細胞や組織への酸素供給が制限されて、エネルギー代謝が低下することが知られています。