汗をかくために0.5度も体温が上昇

今年は5月上旬から最高気温30度以上の真夏日があった。あなたは体調を崩していないだろうか。

高温多湿の環境に長時間いると脱水症状になって、皮膚に集まった血液の流れが滞り、体温の調節機能がうまく働かなくなる。この状態が続くと、めまいや立ちくらみ、頭痛、吐き気、体のだるさ、失神やけいれんなどが起き、重症化すると死に至る健康障害をまとめて「熱中症」と呼ぶ。

夏にマスクを着用していて、暑がっている女性
写真=iStock.com/itakayuki
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熱中症に詳しい帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長の三宅康史医師によると、大きく2パターンがあるという。

「熱中症には、元気な人が暑い中でのスポーツや仕事によって体調不良に陥る『労作性熱中症』と、熱波に包まれた環境(半数以上が室内)で過ごすことによる『古典的熱中症』があります。

数として多いのは高齢者による古典的熱中症ですが、バリバリ働くビジネスパーソンも、睡眠不足やストレスで過負荷がかかって自律神経の働きが低下しているときには注意しましょう」

人の体は暑さを感じると、自律神経の働きによって末梢血管を大きく広げて血液をたくさん流したり、発汗させたりして、体の表面から空気中に熱を放散させ、体温が上がらないようにする。脳や内臓は熱に弱いからだ。

「適切な放熱によって正常な体温が維持できるのです」

と、信州大学医学部特任教授の能勢博氏が説明する。

「暑さに慣れていない状態では、平熱からたとえば0.5度の体温上昇で、やっと皮膚血流量が増したり汗をかいたりなどの体温調節反応が起こります。これは本人が暑い、暑いと感じながら体温調節を行っている状態です。ところが暑さに慣れると、わずか体温が0.1度上昇するだけで、これらの体温調節反応が働くようになります。すなわち本人はさほど暑いと感じていないのに、皮膚血流が増え、汗をかける状態になるのです」

それには暑さが本格化する前に、適度な運動によって体温を上げ、体を暑さに慣らすことだ。これを「暑熱順化」といい、熱中症に強い体をつくれる。

日常生活では入浴やウオーキングなどから始めるといいだろう。

「時間がない人であれば、仕事帰りに一駅前から歩くのがお勧めです。また血管を拡張する、汗をかくという機能はすべて自律神経の働き。副交感神経が人間の体に応じて働いてくれているのです。ぬるめのお湯に入浴して汗をかくことは副交感神経をオンにし、なおかつストレスを発散してリラックス作用もありますから、習慣にしてほしいですね。ジムに通うのももちろんいいですし、日頃から運動して体力のある方は屋外でゴルフなどのスポーツを楽しむのも有効です」(三宅医師)

日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトによると、日常生活でできる暑熱順化する動きとして、ウオーキングなら30分、ジョギングなら15分、筋トレやストレッチなどは1日30分を週5日、入浴は2日に1回を挙げている。現在、自分がどの程度暑熱順化ができているか、チェックリストで確認してほしい。

能勢氏は「インターバル速歩」を提唱している。

「リラックスして背筋を伸ばし、いつもの歩幅の『ゆっくり歩き』と、本人がややきついと感じる、最大体力70%くらいの『速歩』を3分ずつ交互に繰り返すのです。これを1日5セットで(計30分間)、週4日程度行ってください」

「ややきつい」のレベルは年齢や個々の体力によって異なるが、自分にとって「息は弾むが、きれない」程度を目安に。インターバル速歩以外でも、水中ウオーキングやエアロビクス、ダンス、テニスなどの運動でもOKだ。