口が半分しか開かなくなることも

突然だが、あなたは口を縦に4センチ(指3本分)程度、開けられるだろうか。人差し指、中指、薬指をそろえて伸ばし、上下の歯の間に縦に差し入れ、第2関節付近まで入るくらい開けられるなら問題ない。しかし口を大きく開けられない、口を開け閉めするときにカクンと音がする、あごを動かすと周辺が痛い……などといった症状があるなら、「顎関節症がくかんせつしょう」かもしれない。

東京医科歯科大学歯学部長で顎顔面外科学分野教授の依田哲也氏によると「日本人の10〜20%程度に顎関節症の疑いがあると推計され、女性が男性よりも2〜3倍多い」という。

「あごを動かすと痛い、音がする、口が開かないといった症状がありますが、まずは腫瘍など他の病気でないかを確認することが大切です。また顎関節症というのは総称で、日本顎関節学会では4つの病態に分類しています。1つ目はあごを動かす咀嚼筋そしゃくきんの痛みで起きる『咀嚼筋痛障害』。夜に歯を食いしばる、急に口を開ける、また使いすぎたときに筋肉に炎症やこりが起きてしまうのです」(依田氏)

歯の模型と歯を割ろうとしているくるみ割り器
写真=iStock.com/dore art
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2つ目は「顎関節痛障害」といって、耳の近くの顎関節の炎症などで痛みが出た状態。

「3つ目が顎関節症患者の半数を占める『顎関節円板障害』。下あごの骨の一部に、関節円板というクッションがあり、正常な口の開閉では関節円板が骨と一緒に動きます。それが主に前方に関節円板がずれ落ち、あごが動いた際に引っかかってカクンと音がします。

ずれが進行すると音が消えますが、口が半分しか開かなくなってしまうこともある病態です」(同)

そしてクッションが機能しなくなり、骨と骨がこすれて変形したのが4つ目の「変形性顎関節症」だ。骨の変形によってあごの動きが悪くなったり痛みが出たりする。

日本顎関節学会指導医で専門医の佐藤文明氏(佐藤歯科医院今戸クリニック院長)は、顎関節症疑いの患者が来院した場合、まずレントゲンを撮って、4つ目の病態に該当するあごの骨に変形がないかを確認する。次に口の開閉に異常がないか(顎関節円板障害)を見極め、それらが問題なかったときに「筋肉」か「関節」の状態(咀嚼筋痛障害か顎関節痛障害)をチェックして診断するという。いずれの病態にしても「原因は一つではない」と佐藤氏。

「たとえばスマホを見るのにいつも下を向いている、猫背、頬杖など、日常生活で顎関節症になりやすい動作がたくさんあります。就寝中はコントロールが難しいですが、歯ぎしりの習慣もそうですね。それらのリスク因子が積み重なっていき、その人が持つあごの耐久力を超えてしまうと、症状として出てしまうのです」(佐藤氏)