1人の時間があるから再び立ち上がることができる

大きな喪失に直面した際、自分だけの空間において1人で過ごす時間は必要不可欠だ。私たちは1人の時間をとおして記憶を整理し、自分に降りかかった喪失の意味を理解して、去っていった対象を永遠に心に刻む作業をする。失恋や死別を経験した人たちが、一定期間部屋に籠もり、屍のごとく布団にくるまってばかりいるのも、そのためだ。そうすれば大抵の人たちは悲しみをうまく鎮めて再び立ち上がり、より成熟した姿で自分の道へと戻れるようになる。

ところが1人でいることを恐れ、十分に悲しみを体感しないまま、すぐに新しい人を探したり、別のことに没頭したりしてしまうと、悲しみはかえって尾を引くことになる。失恋は新たな恋で忘れるものだという言葉もあるけれど、悲しみが消える前に別の人とつき合ってしまうと、無意識のうちに心に積もっていたうっぷんや怒りを新たな相手に吐き出してしまい、自ら関係を壊しかねない。だから耐えがたい喪失に直面した時は、無理に人と関わろうとせず、静かに1人で過ごすことだ。悲しみをきちんと鎮められれば、自然と誰かに会いたくなって、相手のすべてをきちんと受け入れられるようになるだろう。

イヌイットは悲しみや怒りがこみ上げた時「ただ歩く」

文化心理学者キム・ジョンウンは、著書『遊んだ分だけ成功する』(未邦訳)で次のように述べている。

キム・ヘナム著、渡辺麻土香訳『「大人」を開放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)
キム・ヘナム著、渡辺麻土香訳『「大人」を開放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)

「イヌイットは心に悲しみや不安、怒りがこみ上げた時、意味もなくただ歩くという。悲しみが鎮まり不安や怒りが消えるまでひたすら歩いて心が落ち着きを取り戻したら、そこで振り返り、その地点に棒を立てるそうだ。その後また日々の暮らしの中でどうしようもなく腹が立って歩いた時、途中で以前立てた棒を見つけたら、ますます生きづらくなってきたということであり、棒に出くわさなければ、なんだかんだで耐え得る人生ということになる。休息は人生の棒を立てることだ。心の中の自分とどこまでも話し合い、穏やかさを取り戻すまで歩き続け、その地点に棒を立てて戻ることである」

つらくなった時は、しばらくすべてを停止して、自分自身に1人の時間を与えるだけでも、人生における問題の多くが解決するのを実感するだろう。そして気づけるようになるはずだ。あなたが無理にしなくてもいいことや、無理に会わなくてもいい相手、さらには今後するべきことと大切にするべきことに。それが、あなたに1人の時間を積極的にすすめる理由である。

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