※本稿は、キム・ヘナム著、渡辺麻土香訳『「大人」を開放する30歳からの心理学』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
現代人には「1人の時間」が必要だ
現代社会を生きることは非常に骨が折れることだ。学ぶべきことも多ければ、考えなければならないことも山ほどある。大量の刺激が入ってくる一方で、それを消化するための時間は絶対的に不足した状態だ。そのためある瞬間、負荷がかかり過ぎたコンピューターのように脳の回転スピードは落ち、頭がうまく回らなくなる。こういう時は判断力が急激に低下して、重要な判断を見誤る可能性が出てくる。その上アイデアも枯渇して、現状維持に汲々とするばかりだ。そうなると、ただ椅子に座っているというだけで、仕事は進まず好ましい結果も出ない。たっぷり寝てもちっとも疲れが取れず、ストレスもたまる一方である。
そういう時に必要になるのは休息だ。日々無数の刺激に囲まれている私たちは、知らず知らずのうちに、たくさんのことを見聞きして、経験を積み重ね影響を受けている。そうやって押し寄せる刺激を、瞬間的な知覚として受け流すのではなく思考として発展させるには、考えを整理するための1人の時間が必要だ。食後しばらく体を休めると食べ物の消化が良くなって骨や肉の形成が促進されるのと同じように、押し寄せる刺激を理解してかみ砕き、精神の形成を促進させるには、刺激を消化するための余裕が不可欠なのだ。
ビル・ゲイツは年に2度「思考週間」を過ごしている
ゆえに脳に負荷がかかり過ぎていると思った時は、一旦すべてを停止して休息を取らなければならない。それ以上の刺激が入るのを防ぎ、脳がそれまでに受け取った情報を整理して、既存の情報と統合するための時間を作るべきだ。
そうした理由からビル・ゲイツは年に2度、アメリカ西北部にある別荘で1週間の「思考週間(Think Week)」を過ごしている。社員はもちろん、家族の訪問も断って1人だけの時間を作りリフレッシュするのだ。マイクロソフト社の重要な事業構想は、すべてこの時間で作られたといっても過言ではない。
だが思いのほか、休むべき時にきちんと休める人は多くない。一部の人たちは休み自体を上手に受け入れることができないのだ。何もせずリラックスする時間に耐えられないのである。彼らは働いていない時間も休むのではなく、多少なりとも意味のある生産的な何かをするべきだと考える。そのため休み時間もじっとしていられないうえに、絶えず新しい何かを吸収しようとしてしまう。外部のあらゆる刺激から完全に距離を置くことができないのだ。すると心身が常に張り詰めた状態になり、脳はオーバーヒートして、ついにはバーンアウトしてしまう。