高齢者の死因にはどのようなものがあるのか。東北医科薬科大学教授で法医学者の高木徹也さんは「『正月の餅』と同じくらい高齢者を窒息させる食べ物がある。一見詰まりにくい見た目だが、水分を含むと膨張して気道を塞いでしまう」という――。
※本稿は、高木徹也『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
年を取ると「むせる」機能が衰える
厚生労働省の統計によると、日本で食べ物をのどに詰まらせて亡くなる人の数は、年間3500人以上。そのうち、なんと2500人以上が80歳以上とされています。
そもそも人体の構造上、食べ物を胃に通す「食道」の入り口と、呼吸のために空気を肺に通す「気道」の入り口はお隣同士。食べ物が気道に向かわない理由は、見た目や匂いから「食べ物である」と脳が認識し、舌やのどの動きで食べ物を食道に運んでくれるからです。
さらに、のどの奥にある「喉頭蓋」は、食べ物と空気を分ける役割を持っています。このように、私たちの身体は誤嚥させまいとする対策がバッチリなわけですが、それなら、なぜ人はむせるのでしょうか?
実は「むせる」のは、脳の認識不足や咀嚼が不十分なときに、気道に食べ物が侵入するのを防止する正常な反射なのです。医学的には「咳嗽反射」といい、人はむせることによって誤嚥を防いでいます。
ところが、高齢者は「むせ」が起こらず、食べ物をのどに詰まらせて死んでしまうことがあるのです。歳を重ねると噛む力が低下し、人によっては歯周病などで歯の本数も減ります。そのため、食べ物を小さくしにくくなり、のどに詰まりやすくなります。
また、加齢による動脈の硬化症も問題です。脳血流量の低下によって微細な脳梗塞を起こすことがあり、これは命に関わるほど重篤なものでなくても、咀嚼や飲みこみの機能を悪化させ、咳嗽反射も低下させることがわかっています。
このように、食べ物が気道に向かってしまっても、さまざまな要因で防御反応である「むせ」が起きず、食べ物が気道を塞いで窒息に至ってしまうのです。