派閥の政治資金パーティーをめぐる事件を受けて、自民党の6派閥のうち5つが解散を決定した。戦後政治において「派閥」はどのような役割を担ってきたのか。読売新聞グループ本社・渡辺恒雄主筆の著書『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』(実業之日本社、1967年刊の復刊)より、一部を紹介する――。

※肩書や為替レートなどは1967年当時のものです。

自民党本社
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企業が献金をするのは「反対給付」があるから

経団連、日経連、経済同友会の幹部たちが、しばしば政界の腐敗を嘆き、その浄化と近代化を望む談話を発表したりする。しかし、私の見る所では、政界を腐敗させた責任の半分は財界にあるのではないかと思う。というのは、多くの大企業経営者は、一応国民協会を通ずる献金はするものの、その数倍の献金を、自民党の実力者や特定の国会議員に対して与えている。

そうした献金は、ほとんど、何らかの反対給付をアテにしているのである。その反対給付とは、土建会社に対する公共事業の割当てとか、特定の産業に対するその製品の物品税の引下げとか、原材料の輸入関税の引下げとか、特定の企業に対する利子補給とか、である。復興金融金庫融資をめぐる「昭電事件」とか、造船利子補給をめぐる「造船汚職」とか、そうした実例は、数えあげれば、キリはない。

私が面接したある化学産業の大企業の社長は、次のように語っていた。

「私の会社では、自民党の八個師団に対し、選挙のたびに500万円ずつ献金していた。私の会社の利権で最も関係のある某省にしてもその大臣が、毎年の内閣改造でどの派閥から出るかもわからないから、全派閥に保険をかけておくわけだ。しかし、最近では、派閥やその実力者の統制力が弱まり、派閥の親分にカネを渡しても効果は少なくなった。何といっても、カネの効果が最もあがるのは、その省の現職大臣か高級官僚にジカに渡すことだ。だから、これから全部の派閥への献金は止めようと思っている」

利益還元の見込めない政治家は、財界から見捨てられる

このような角度、つまり献金→利権での還元というギブ・アンド・テイクの法則が、政治献金ルートを決定しているのだから、利権を握らぬ政治家は、“実力者”になれず、また利権をにぎった子分に対する統制力を持たぬ実力者は、没落するのである。

もうひとつの例は、旧河野派(春秋会)の弱体化の理由である。旧河野派は、河野一郎の存命中は、「三金会」という名の財界の後援団体があって、18の大企業が加盟しており、年間1000万円ないし2000万円を献金していたという。だから旧河野派には、年間2億円前後の経常費があり、巨大派閥の勢威を誇った。

しかし、河野親分の死亡後は、1社去り2社去り、残った社も、献金額をへらしており、このため旧河野派は分裂の危機にひんしている。これも、故河野一郎を失い、佐藤政権下で党役員も出せず、伴食閣僚1名と、利権の関係のまったくない衆参両院の正副議長をあてがわれているだけで冷飯喰いの状態にある旧河野に対し、献金しても、それだけの利益還元を期待できなくなったことに対する財界人の計算の結果である。