ワシントンの「金権政治」の実態
とはいえ、個々の地方選挙などでは、候補者は、党の援助をあてに出来ず、自力でまかなわねばならぬから、大企業や利権団体、つまり圧力団体からの献金に頼っているのが本当のようだ。ダグラス・ケーターは、『ワシントンの権力』の中で、次のように書いている。
「議会選挙に初出馬する新人候補は、全国委員会からの資金援助をあてにできない。もらっても、せいぜい2、3000ドルだろう。ところが、激戦の都市部選挙区から下院選挙に立候補するには、10万ドル以上かかるようだし、大きな州の上院選挙だと100万ドル以下ではすまないのだ。ここに圧力団体にとって豊沃な土壌がある」
ケーターによれば、各種圧力団体(外国政府も含まれる)の手先として政界工作をするロビイストたちは、巨額の資金を使って買収活動をしており、これを規制する法律によって、ロビイストは議会に登録し、その財政報告書を提出しなければならないことになっているが、「毎年議会に報告される支出金額が氷山の一角にすぎないことは周知の事実である」。
そして、「あたりをかぎ回った記者なら、どれだけの金額が動いたかの証拠はつかんでいなくても、不快な金の取引きのリストを握っているものだ。議事堂周辺には、おどし専門の圧力工作者がうろついている。議員にとっては、選挙区の法律事務所に払いこまれた合法的な謝礼から、利益団体の大会でぶった演説の“お車代”まで、収入にはこと欠かない」と書いている。
米国、日本、西ドイツの政治献金の違い
アイゼンハワー時代に、フランシス・ケース上院議員が、石油ロビイストから賄賂をもらったことを暴露したため、アイゼンハワーは、元来自分が賛成であった天然ガス規制法案に対して、疑いを残さぬために、あえて拒否権を発動せざるを得なかった。というような事実は、右のような、米国の政治権力に巣食う腐敗の一端を示すものでもあろう。
米国では、所得税法と連邦および州の腐敗行為防止法によって、大口献金は表面上禁止されているが、西ドイツ以外の先進諸国では、政治献金の損金算入は否認されており、政治献金は利益処分として処理されねばならないのが通常である。その点、日本では、一定率内で、政治献金は損金算入が認められている。西ドイツでは、企業は、総所得の10%、または総売上高および、一暦年に支払われた賃金並びに俸給の2%までは、控除されることになっている。
西ドイツの選挙は、小選挙区制を加味した比例代表制であり、個々の国会議員選挙は、カネがかからぬものとされているが、それでも、社会民主党でさえも、大企業から巨額の寄付を得ている。しかも、キリスト教民主同盟、社会民主党、自由民主党の三大政党に対しては、公然と、法律によって、国家予算の中から、毎年3800万マルク(約34億円)もの巨費が、政治活動資金として、交付されている。政党の政治資金にここまで公共性を持たせる思想に立脚すれば、日本的金権政治も超克され得るかも知れない。