適切に言い返し生贄がいらない職場に

さて、嫌味や悪口を向けたはずのあなたがダメージを負った様子を見せず、逆に「教えてください」と食らいついてきたらどうなるか。あくまで職場ですから、コミュニケーションを仕掛けた手前、相手としても何かアドバイスめいたことを言わないわけにはいかないでしょう。

それを受け取ったら「ありがとうございます。次からそうしてみます」と明るく返事をして、その場を離れてください。そういうことが何度か繰り返されていると、だんだんと相手の調子が狂ってきます。

アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーは「認知的不協和の解消」という理論を提唱しています。この理論によれば、人は自分の行動と認識の間にギャップが生まれると、それを埋めるために自分の認識を修正する傾向があるということです。

つまり、最初はあなたが嫌いで落ち込むさまを見てやろうと暴言を浴びせたのに、あなたは落ち込むどころかにこやかにそれを聞いて、自分にアドバイスを求めてくる。しかも、時々お礼まで言われてしまう。この違和感を埋めるために、相手は「俺があいつに言葉をかけているのは、あいつのことを気に入っているからだ」と認識を修正するのです。

他人にあたり散らす人がなぜそんな大人になってしまったかを推察するに、幾つかのパターンがあると思うのです。もっともありがちなのは、自分が若手のころに上司からそのような仕打ちを受けていた、というものです。「俺は上司からの厳しい仕打ちに耐えてきた。だから次は俺が部下のおまえにそうしてやる」という、なんとも情けない報復です。

本当は誰だって他人から好かれたいし、感謝されれば嬉しいと感じるはずです。でも、そんな言動をしていれば誰からも嫌われますし、感謝されません。上の立場になれるくらいですから、仕事はそれなりにできるのでしょう。でも、マネジメントは失格です。

あなただけが標的にされているなら、言いやすいあなたが「生贄」になっている可能性もありますが、そんな職場が健全であろうはずがありません。被害者であるあなたに問題があるとは言いませんが、あなたの振る舞い次第でその状況を変えることができるかもしれません。

私はかつて15年間、保険会社に勤めていました。そこで人にあたり散らす怖い課長がいて皆に煙たがられていたのですが、私が何を言われてもへこたれず「教えてください」と応じていたら、だんだんと仕事の奥義や裏情報を教えてくれるようになりました。

当初は同僚から「すごいね、あの人と対等に話せるのは司さんだけだよ」と言われたりしましたが、その課長はだんだんと鬼の形相が柔和になっていき、最後には「頑固なところはあるが話せばわかる人」という評価になっていました。

あなたが適切に言い返すことで、鬱屈した人の心が浄化され、働きやすい雰囲気が醸成されるかもしれません。これからは言われっぱなしではなく、言い返して好かれる自分を目指してみてはどうでしょう。

(構成=渡辺一朗)
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