現在40代の女性は26歳で結婚して以降、近くに住む夫の家族に翻弄され続けた。ある宗教の信者である義母や義兄は「タメになる話をしてあげる」と女性に何度も“聖書”を復唱させるなど折檻した。夫の出張を見計らって、「牧師先生」と面会させられそうになった女性がとった行動とは――。(前編/全2回)
月に照らされた木造住宅
写真=iStock.com/urbancow
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ある家庭では、ひきこもりの子どもを「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。

そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体的事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。

今回は、26歳で結婚して以降、義母や義きょうだいたちから非現実的な扱いを受け続けている、現在40代の女性の家庭のタブーを取り上げる。彼女の「家庭のタブー」はなぜ生じたのか。彼女は「家庭のタブー」から逃れられたのだろうか。

夫との出会い

関西地方在住の行田優芽子さん(仮名・40代)は、工務店を経営する父親と看護師の母親のもと、3人姉妹の次女として誕生。行田さんは生まれつき肝臓病を患い、疲れやすい体質だったが、成長に伴い活発性格に成長した。

やがて高校を卒業すると、行田さんは派遣会社に登録。短期のヘルプ要員としてレジャー系企業で1カ月間働くことに。そこで教育担当になった2歳年上の男性は、まだ19歳の行田さんに優しく丁寧に仕事を教えてくれた。

働き始めて2週間ほどで交際に発展し、まもなく同棲を始め、2カ月ほど経った頃、初めて彼の実家に遊びに行くことになった。

当日、彼と2人で実家を訪れると、「こんにちは! どうぞ、上がって!」と母親は優しく出迎えてくれた。持参したお菓子を渡し、少し会話をした後、もともと彼が使っていた部屋を見せてもらうことに。しばらく彼と2人で話していると、母親が飲み物やお菓子を手に、数分ごとに現れては去っていった。

1時間ほどして帰ることになり、去り際に行田さんは来たときは緊張のあまり見落としていたことに気付く。家の中の至る所に宗教的なものが置かれていたのだ。

その帰り道、思い切って彼に言った。

「○○くんの家さあ、宗教の物がたくさんあったけど、そうなの?」

すると彼は答えた。

「ああ。俺も子どもの頃は母さんに連れられて通っていたけど、俺はもう信仰してないよ。それに母さんもきょうだいも、絶対に勧誘して来ないから大丈夫だよ」

行田さんは、彼が嘘をつく人ではないことを知っていたため、安心した。しかし、彼はただ、自分の母親やきょうだいのことをわかっていなかっただけだった。