「文学は何の役に立つの?」と聞かれたら…
【井上】今の子どもからすれば、自分は自分、この人はこの人、と割り切って終わるような感じなのではないでしょうか。たとえば今、文学を読んで泣く男の子ってどのくらいいるんだろう。
【加藤】確かに。もし、子どもから「文学は何の役に立つの?」と聞かれたら、どのように答えればいいのでしょうか。
【井上】いま「文学は人生を豊かにするために読むんだよ」と言っても、「豊か」の概念がよくわからない、と言われてしまうような気がします。子どもからすると、自分はいま十分満ち足りていて幸せなんだよ、という感覚なのでしょう。
文学の価値は読んですぐにわかるものではなくて、もしかしたら10年後、あるいは20年後に、それも役に立ったのかどうかも気づかないうちに生き方に影響を与えているようなものです。文学の価値とはそのようなものだと思います。