台湾防衛については日本の役割増大を要求か
世界に名だたる半導体産業などを持つ台湾を、中国に差し出したいという気持ちまでは、トランプ氏も持っていないだろう。ただしトランプ氏はかつて、台湾の半導体産業がアメリカの半導体産業を圧倒するのを、高い関税をかけることで防ぐべきだったという見解を示したことがある。安全保障でアメリカの傘に依存している台湾は、トランプ氏にとって重要な「取引」交渉の議題になるだろう。
いずれにせよ、同盟関係を重視し、台湾防衛に関してしばしば踏み込んだ発言を行ったバイデン大統領の時代と比べれば、トランプ氏が大統領に就任した場合には、アメリカの台湾への関与の度合いは減っていくと思われる。
日本では、トランプ氏が大統領になると、在日米軍の駐留経費負担の問題が浮上してくるのではないか、と言う人が多い。しかし実際には、すでに日本は在日米軍の駐留経費の大半を負担しており、あまり伸びしろはない。より重要なのは、日本に周辺領域を防衛する能力を高める要請をしてくるかどうか、である。
日本の防衛費倍増の流れともからめ、台湾海峡危機の可能性も視野に入れた日本の島嶼防衛能力の向上を、アメリカは今以上に期待するだろう。「トランプ大統領」であればより具体的に、アメリカの防衛産業に利益が出る形での日本の防衛費の増大を、強く求めてくるだろう。
超大国化し中国と競合するインドとの関係は
次の大統領が任期を全うするまでの今後の5年間で、インドの超大国化は進み続ける。その5年のうちには、インドが国内総生産(GDP)世界3位の地位を手に入れている可能性が高い。そうした変化は国際社会におけるインドの政治力だけでなく、軍事力の増強にも反映されていくだろう。BRICSなどを通じた対話の機会は維持しつつも、インドは中国との競合関係を強めていくだろう。
インドの超大国化という国際政治の構造転換に、アメリカの大統領がどのように対応していくかは、一つの大きな注目点である。インドとの関係を重視して中国を封じ込めようといった発想は、「アメリカ・ファースト」のトランプ氏には希薄であると思われる。インド太平洋地域における自由貿易圏の形成といった多国間主義的な議題にも、おそらく関心がないのではないか。すでにトランプ氏は、自分が大統領に就任したら、バイデン政権が推進している「インド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework: IPEF)」からは離脱すると発言している。