アメリカとの「軍事同盟」は望まないインド

ただしインドの超大国化が、例えばアメリカの軍事産業をうるおす形で進むのであれば、トランプ氏はそれをもちろん歓迎するだろう。モディ首相らがロシアのウクライナ全面侵攻に批判的な発言をしたりしながらも、結局インドはロシアとの関係の冷却化は避け続けている。その背景には、冷戦時代に培われたインドの兵器体系のロシアへの依存があると言われる。だがインドはこの状態に甘んじているわけではない。アメリカの最新兵器の導入には関心を持っており、アメリカも当然そのようなインドの動きをすでにもう歓迎している

2019年9月22日、ヒューストンで開催されたモディ首相を称える集会で、舞台裏で子供たちと対面するドナルド・トランプ大統領(当時)とインドのモディ首相
2019年9月22日、ヒューストンで開催されたモディ首相を称える集会で、舞台裏で子供たちと対面するドナルド・トランプ大統領(当時)とインドのモディ首相(写真=The White House/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons

「アメリカ・ファースト」のトランプ第2次政権で、軍需産業を接点としたアメリカとインドの関係強化の流れが加速する可能性はあるだろう。「クアッド」では軍事問題が話し合われたことがないが、トランプ氏はそのような慣例にはとらわれないだろう。そもそもトランプ氏がインドとの関係を強めるとしたら、それは(疑似)軍事同盟を形成するためではなく、経済的利益を追求するためであるはずだ。

それはインドの基本的姿勢にも合致する。インドはアメリカとの軍事同盟は望まない。アメリカが遠方からインドを防衛に来るはずはないし、核兵器をすでに自国で生産しているインドにとっては、アメリカとの同盟関係で得られる国防上の利益は少ない。

ただしインド太平洋地域における航行の自由といった議題には、海軍力の増強を図っているインドも関心を持つだろう。共同作戦の可能性は視野に入れながら、兵器体系の強化への関心を通じて、アメリカとの関係を進展させていく政策は、インドにとって合理的である。トランプ氏とインド政府の意向が合致して、両者の軍事面での協力関係に、さらに日本とオーストラリアの参加が要請される事態も想像できないわけではない。